第307話 握られた手

 いきなりそう聞かれて、そもそも、何を聞かれたのか理解できなかった。


 流石にいきなり過ぎるし、なんの準備もしていなかったからだ。


 それに、そもそも……その件の前野が今、俺の布団に潜り込んでいるなど、今、俺に質問してきたヤツは想像もできないだろう。


「あ……悪い。その……別に答えたくないなら答えなくて良い」


 質問してきヤツはそう言うが……周りの奴らは興味津々で俺の方を見ている。


 ……まぁ、こういう状況だとこういう話に興味は出るよなぁ。


 俺だって、もし、こういう立場でなかったら、きっと、話を聞こうとするくらいはするだろう。


「……えっと、いや、別に、答えられないわけじゃない」


「マジで!? え!? じゃあ、やっぱ付き合ってんの!?」


 別のヤツが身を乗り出して聞いてくる。俺は面食らってしまう。


 その時、布団の中に突っ込んだままだった右手を……ギュッと握られた。


 思わず俺は布団の方を見てしまう。しかし、それは確実に前野が俺の手を握った感触だった。


 先程、外川に半ば強引に手を握られた時とは違う……なんだか、優しい握り方だった。


「……うん。付き合っている」


 自然とその言葉が出てしまった。身を乗り出して聞いてきたやつも、あまりにも俺があっさりと答えたので驚いているようだった。


 そして、周りのヤツらも何故か俺の回答を聞くと同時に、急に興味を失ったように布団に入っていった。


「……え? なんか……変だった?」


 俺に質問してきたやつに、俺は思わず聞きかえてしまう。


「あ~……いや、まぁ、やっぱりなぁ、って感じだったから……」


「……え? それって、つまり……俺と前野って、ずっと……付き合っているように見えてたってこと?」


「え……後田、お前……自覚なかったのか? アハハ……結構天然なんだな、後田って」


 ……俺は急に恥ずかしくなってしまった。


 布団の中で前野が必死に笑いを押し殺しているのが、なんとなく分かる。


「はぁ~、でも良いよなぁ。あんな美少女と付き合っているなんて……なぁ、後田。どうして付き合えたんだ?」


 と、別のヤツがそう聞いてくる。俺はそんな質問をされて少し答えた後で、思いついたことを応える。


「……席が前と後ろだったから、かなぁ」


「へ? なんじゃそりゃ」


 そして、今度こそ、みんな俺のことに興味を完全に失ったようで、布団に入った。俺も布団に横になる。


 前野は未だに俺の右手を握っている。


 ……これからどうするか、静まり返った部屋で俺はぼんやりとそんなことを考えてしまったのだった。

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