第299話 何もない僕達

 俺はしばらくの間、外川を見ていた。外川も視線を逸らさずに俺のことを見ている。


 ……どういう意味だ? いや……別にどういう意味もなくて……そのままの意味だろう。


「……俺には……お前がお似合いってこと?」


 俺がそう言うと外川はその通りだと言わんばかりに大きく頷く。


「だって、そうだろう? 君、自分が前野さんとお似合いだと思うのかい?」


 ……そう言われると少し不安になる。前野はたしかに変わっているが……美少女だ。


 長くて綺麗な髪、綺麗な瞳……おおよそ、俺が付き合えるのが信じられないくらいの美少女である。


 そんな美少女と、つい最近まで、教室の端っこで窓の外ばかり見ていた人間が釣り合うのかと言われると……不安になる。


「……いや、でも、俺は前野に好きだって言われたんだ」


「それ……ホントなのかな? もしかして、君……誂われているんじゃない?」


 ニヤニヤしながら外川はそう言う。違う……前野はそんなことしない。そんなことをするタイプではない。


 自分の中で必死に否定するが……100%と言い切れるのか? 俺には何も良いところがない。それなのに、前野は俺のことが本当に……好きなのか?


「でも……僕は大丈夫」


 そう言って外川は俺の手を勝手に握る。


「君は自分には何も良いところがないって思っているんだろう? 僕も同じさ。僕たちは似た者同士。何も魅力的な部分……良いところがない。でも、僕はそれを分かっている。君もそうだろう?」


 そう言って外川はなぜか強く俺の手を握る。


「だから……互いに慰め合おうよ。何もない僕たちならそれができるんだ」


 そういう外川の目つきは……怖かった。それ以上外川の言葉を聞いていると、本当にそのように思えてきてしまうからだ。


「……違う。俺は……」


「何が違うのかな? もし、そう思うなら、僕が握っているこの手……今すぐ振り払ったらどうかな?」


 俺がそれをできないのをわかった上で、外川はそう言っている。すでに夕日が沈みかかっていた。


「大丈夫。何もない君のことを不安にさせたりしないよ。僕だって何もないんだから。安心して、僕に頼ってくれて良い」


 夕日が沈んで、あたりも暗くなった。もう……宿屋に帰らなければならない。


 俺は少し間を置いてから、外川に手を握られたままで、ゆっくりと、立ち上がる。


「……帰るぞ」


 しかし、外川は手を離さない。


「そうだな。このまま帰ろうか」


 嬉しそうにそういう外川。あぁ……コイツは……俺のことをどうしても同類にしたいようなのであった。

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