第295話 可愛らしさ
それから俺と前野は自販機で飲み物を買って、飲みながらゆっくり歩きながら戻っていく。
俺は横目でちらりと前野のことを見る。前野は特に気にしていない様子でペットボトルに口をつけている。
……そういえば、俺は前野に告白されたんだよな。いや、俺も俺で告白したわけなんだが……。
なんか……もっと、こう、そういう関係っぽい感じにしてもいいのではないか?
これでは、前の席と後ろの席のクラスメイトの関係とあまり変わらないような……。
「あ、そうだ」
と、急に前野が声を出す。
「……なんだ?」
「名前で呼ぼうよ。名前」
嬉しそうにそう言う前野。俺はいきなりそう言われて意味がわからなかった。
「……名前って……え?」
「だから! いつも名字で呼んでいるでしょ? それって、なんだか……他人行儀って感じがしない?」
「……そう、かもな」
俺がそう言うと嬉しそうな顔で前野は俺を見る。
「……湊、って結構可愛い名前しているよね?」
そう言われて俺は大分恥ずかしかった。昔から確かに何度か言われたことだったし、自分でもそう思っていたわけで……。
「……だ、駄目だ……恥ずかしい」
「え~。駄目?」
そう言って前野は至近距離で俺に聞いてくる。この感じでは間違いなく、NOとはいえない状況だった。
「……わかったよ」
「フフッ。ありがと。湊」
……駄目だ。まったく慣れる気がしない。世の中のカップルはこれを普通にやっているというのか? 信じられない……。
「じゃあ、次は私」
「……え?」
「名前。呼んでみて」
……ここまで来たらもうヤケである。俺は覚悟を決めることにした。
「……真奈美」
俺がそう言うと、前野は……いや、真奈美は、目を丸くしたあとで、恥ずかしそうに俯いてしまう。
「な、なんか……恥ずかしいね……」
そう言って恥ずかしがる前野は新鮮で……可愛らしかった。
「……だから、言っただろう」
「で、でも! 最初は慣れないかもしれないけど! 頑張ろう!」
……それって、頑張ることなのか? と突っ込みたかったが、いつになく一生懸命な前のを見ていると、小さく頷くことしかできないのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます