第293話 底が知れない

そして、次の日。


「後田く~ん」


 早く来すぎてしまったので、宿のロビーで他のメンバーを待っていると、嫌に間延びした声で話しかけてくる声があった。


 声のした方を見ると、外川だった。ニヤニヤしながら俺の方に近付いてくる。


「……おはよう」


「おはよう。なんだか、眠そうだけど、大丈夫かな~?」


 ……外川に言われた通り、たしかに俺は少し眠かった。昨日、あれからずっと考え込んでしまったのだ。これからどのように前野と付き合っていけばいいのか、など……。


「……別に大丈夫だ。それに別に今日だって、適当に観光するだけだし」


「まぁ、それもそうだけどさ~。何か、悩みとかあったのかな~、って」


 そう言って、俺が座っていたソファの隣に外川は腰を下ろす。


「もしかして……河原で何かあった?」


 そう言われて俺は言葉に詰まってしまった。その反応がとても嬉しかったようで、外川はニッコリと微笑む。


「そうだよね~。やっぱりね~」


「……お前に関係ないだろ」


「関係ないことないよ~。僕は君のことを気に入っているからね~。君の身に起こったことは詳細に知りたいんだ」


 そういう外川の目つきは本気っぽくて、ちょっと怖かった。


「……俺は別にお前のことをどうとも思っていない」


「あはは~。知っているよ~。こうやってまともに話すようになったのもここ最近だしね~。でも……僕はずっと、君のこと、見ていた」


 そう言って急に真面目な顔になる外川。俺は思わず身を引いてしまう。


「……端井さんはもう諦めているみたいだけど、僕は違う。君だけがリア充になるなんて……僕は許さない。僕たちは……同類なんだから」


 そこまで言うと、またいつものようにヘラヘラとした笑顔になる。


「だからさ……今日もよろしくね~。後田湊君」


 と、そう言ってから外川は急に顔を別方向に向ける。


「あ! 端井さん! こっちだよ!」


 そう言って、外川はやってきた端井の方に走っていってしまった。


 同類……どういう意味だ? やはり、なんだか外川は何をしようとしているかわからないし……何を底が知れないのであった。

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