第292話 深夜の悩み

 それから前野と別れ、宿泊する部屋に戻った。


 当然の如く、知り合いも話したことのある人もいないし、部屋に戻っても特に誰と話すこともなく、布団に潜り込む。


 といっても、こういう状況だと大体は、周りは夜遅くまで話しているものだ。


 大体話していることは、誰と誰が付き合っているとか、好きなヤツがいるのかどうか……とか。


 布団に入ったものの、中々寝付けなかったので、俺は目を瞑ったままで聞き耳を立てていた。


 ただ……幸い、前野や俺の名前は出てこなかった。


 まぁ、俺と前野はクラスの後ろで目立たないようにしているだけだし、他のクラスメイトからしたら、俺達が付き合っているのかどうかなんてどうでもいいのだろう。


 ……いや、というか、俺と前野は……もう付き合っているっていうことでいいのだろうか?


 河原で前野は俺に「好き」と言ってきた。それに対して俺も好きだと返した。


 それはもう付き合っているっていうことでいいのだろうけど……。


「でもさ……やっぱ、付き合うってなったら、自分から告白しなきゃ駄目だよな」


 暗闇の中で、誰だかは分からないがクラスメイトの誰かがそう言った。


 ……自分から告白か。たしかに……なんだか、前野にばかり無理をさせて……俺の方は何もしていなかった。


 いつも受け身で、前野に対して自分が前野のことをどう思っているのか、しっかり伝えていなかった気がする……。


「お前ら! いつまで起きてんだ!」


 と、いきなり部屋の扉が開いて、体育の先生が怒鳴り込んできた。


 ……いや、そんなでかい声で怒鳴り込んできたら、寝ている生徒も起きてしまうと思うのだが……。


 というか、体育の先生はただたんに、怒鳴り込んできたかっただけのようで、大して確認せずにそのまま部屋を出ていってしまった。


 それ以来、話し声も聞こえなくなってしまった。


 だが、俺だけが、これから前野に対してどうすればいいのか……付き合うってどういうことなのかを、ただ延々と悩んでしまうことになったのであった。

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