第283話 覚悟

 前野の誘いには驚いてしまったが、その場では俺は返事をしなかった。


 そうこうしている間に、件の神社に到着してしまった。


「……ここが縁結びの神社か」


 そう言って俺は周囲を見回す。確かに参拝客はカップルが多い気がする。


 しかし、そうなると……男一人、女三人の修学旅行グループで来てしまった俺達はかなり場違いのような気もするが……。


「問題の恋占の石は……あっちかなぁ~?」


 そう言うと、いきなり外川が鳥居を抜けて先へ行ってしまう。残された俺達もその後に続いた。


 外川の後をついていくと、ひときわ人だかりが出来ている場所にたどり着く。


「恋占の石はこちらです! 並んでください!」


 神社の人が叫んでいる。どうやら、かなり人気のようである。そして、ここでもカップルが大多数という状況であった。


「で、どうするんですか~?」


 外川がニヤニヤしながら俺のことを見る。どうするも何も、俺は――


「じゃ、最初は私と後田君で行くから」


「……へ?」


 と、いきなり前野がそう宣言した。俺もそうだったが、外川でさえ呆然としている。


「行こう。後田君」


 そう言うが早いか、前野は俺の手をいきなり掴み、列の方へ走り出した。


 俺も何がなんだかわからないままに、前野に手を引かれて、列の方へ連れて行かれてしまい、そのまま列に二人で並んでしまった。


「……おい。流石に急すぎるだろ」


 俺がそう言うと前野は特に悪びれる様子もなく、微笑を湛えて俺を見る。


「そう? 後田君は最初にやるの、嫌だったの?」


「……そういうわけじゃないが、まだ誰が最初にやるか決めていなかったし……」


「私は、後田君と最初にやるって、決めてたから。後田君は……私と一緒だと嫌?」


 前野ははっきりと、強い調子で俺にそう聞いてくる。


 ……やはり、修学旅行に来てから、前野は覚悟が決まっている、という感じだ。


 そして、そんなことを聞かれてしまっては……俺の答えも決まってしまっている。


「……嫌なわけ無いだろ」


「そっか。じゃあ、安心した」


 嬉しそうにそう言って、前野は俺の手を強く握る。


 ……というか、先程から、俺達はずっと手をつないだままなのであった。

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