第259話 決断の刻、迫る

「大丈夫。すぐに返事をしろ、なんて言わないから」


 と、前野はまるで俺を安心させるように優しく微笑む。


「もし、私の告白に応じてくれるのなら、後田君の方からも私に告白してね」


「……あ、え……お、俺からも……?」


「うん。だって、そうじゃないと、不公平でしょ?」


 不公平……いわれてみれば、今、前野の方から告白してもらってしまった。


 ふと、横山が口にしていた「ヘタレ」という言葉が脳裏によぎる。


「学園祭、最後はあんな感じになっちゃったけど……後田君と一緒に回れたのはとっても楽しかったよ。後田君は?」


「……え、俺は……うん。楽しかった」


「そう。それは良かった」


 満足そうに微笑む前野。そして、既に暗くなっている夜空を見上げる。


「あ……今度は、修学旅行かぁ」


「……あ、あぁ。まぁ、たしかに、次は修学旅行だな」


「楽しみだね。色々と」


 含みのある言い方をして、前野は俺に背中を向ける。


「じゃ、また、学校でね」


 そう言って前野は去っていってしまった。


 まるで嵐が去ったあとのように、俺は呆然としてしまった。


 「……でも、俺、今、間違いなく前野に告白されたんだよな……」


 自分でそう確認するかのようにつぶやく。そして、頬を引っ張った。


 微かに痛みがある。夢でもないようだ。


 どうやら……現実として、俺には決断しなければいけない時が来ているようだった。

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