第226話 無理

「……なんだって?」


 俺は今一度聞き返してしまった。横山は黙ったままである。


「だから……後田君だけ、来てほしいの」


 ……間違いなく横山はそう言った。


 俺だけに来い? なんで? そもそも、俺だけが行ってどうするんだ?


 元々は中原と横山のゴタゴタを解決するために言い出したことであったはずなのだ。


 それなのに、俺だけが行っても……仕方がないだろうに。


 俺は返答に詰まってしまった。それでも回答しなければならない。


「……いや、それは……ダメだ」


 俺はゆっくりとだが、はっきりとそう言った。横山は黙っている。


「……だ、だよね~」


 電話の向こうから少し恥ずかしそうな声が聞こえてきた。なんだ……今のは冗談だったのだろうか。


「……そ、そうか。じゃあ、明日、俺と前野と――」


「真治は……無理」


「……え?」


 と、話がまとまろうという時に、横山がとんでもないことを言い出した。


「……無理って、どういうことだ?」


「いや……真治とは、ちょっとまだ……会えないっていうか……その……ごめん」


「……あ、いや。俺は別に……いいんだけど……」


 ……全然良くない。中原と会わなければ問題が解決しないではないか。


 かといって、この状態の横山に無理を言うのもなんだか気が引けるし……。


「……ごめん」


 横山の一言に、俺も降参するしかなかった。


「……わかった」


 俺はそう言ってしまった。


「……ありがと。明日、会えるの楽しみにしているから」


 そう言って横山は電話を切ってしまった。俺は電話が切れてから落ち着いて考えてみる。


「……いや、どうするんだよ」


 一人でそう呟いたが、もはや仕方がない。


「前野に……なんて説明するかな」


 とりあえず、明日、前野に……いや、あと、中原にも説明しなければならない。


 どうして俺がこんな役回りをしなければならないのか……そう思いながら俺はベッドに横になったのであった。

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