第216話 独占

「……え。な、何か?」


「もういいんだよな? 出し物、決まったんだし」


 そう言って誰もいなくなった教室で中原は俺に近づいてくる。心無しか、横山が少し怯えているようにも見える。


「……えっと……何が?」


「だから、愛留はもうお前らに付き合わなくていいんだよな、って聞いてんだよ」


「……まぁ、今日はもう出し物も決まったし別に帰ってもらってもいいけど」


「そういうことじゃねぇんだよなぁ」


 そう言って中原は俺を睨む。なんだか高圧的な態度だった。


「……じゃあ、どういうこと?」


「もう愛留はお前らの手伝いしなくていいって聞いているんだよ? 別にお化け屋敷くらいお前ら二人でできるだろ?」


 俺と前野は思わず顔を見合わせてしまう。


「真治……やめてよ、ホント……」


 困り顔で横山は中原にそう言っている。


「はぁ? 俺はお前のために言っているんだぞ? それとも、俺との時間よりコイツらと……後田といる時間の方が大事ってことか?」


 横山は酷く弱ってしまっている。俺も……どうすればいいのかわからなかった。


 中原は本当に横山のことを独占したいようである。かといって、俺と前野だけで準備をするっていうのも厳しい気がするが……。


「フフッ」


 と、なぜかいきなり前野が笑った。俺も中原も横山も前野のことを見た。


「……はぁ? お前、何笑ってんの?」


「あ、ごめん。だって……なんだか中原君のことが面白くて」


「はぁ!? 俺のどこが面白いっていうんだよ!?」


 中原が凄んで見せるが前野は喋るのをやめなかった。


「だって……それって、自信がないってことでしょ? 後田君に横山さんを取られるかもって思っている……だから、不安なんでしょ? だから、横山さんのことを独占しようとしている……わかりやすすぎて面白くて」


 そう言ってまたしても笑う前野。流石に俺も血の気が引くのがわかった。


 そして、俺とは対照的に、中原は完全に頭に血が登ってしまっているようだった。


「て……てめぇ! ふざけんじゃねぇぞ!」


 そう言って中原は拳を振り上げ、前野の方に向かっていったのだった。

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