第177話 宣言

「……なんでお前、家まで来たんだ?」


「あぁ。別に後田君の家に来ようと思ったから来たんじゃないよ。ここらへんに用事があったから、ついでに寄ったんだ」


 ……よくわからないが、まぁ、そういうことなら別に良かった。わざわざ訊ねてきたのにずっと家の前に立たせていたのかと思うと、少し気不味い。


「……そうか。だけど、もう夕方だしな」


「うん。今日はどこに行ってたの?」


 前野は自然な感じでそう聞いてくる。しかし、なぜか俺はその質問に困ってしまった。


 ……いや、別に普通に答えればいいのだ。何か悪いことをしていたわけでもない。


「……端井と、会ってた」


 少し間を置いてから俺はゆっくりとそう言った。前野はキョトンとした顔で俺のことを見ている。


「端井さんと?」


「……あぁ。そうだ」


「端井さんと、何の話してたの?」


 ……不味い。端井が言っていたあの「進展」の話……前野にそもそも話せるわけがない。


「……色々だ」


「色々?」


 前野が怪訝そうな顔で俺を見る。あぁ……一番不審がられる回答をしてしまった。


 しばらくの間、前野は俺のことを見ていたが、その後、急に興味を無くしたかのように視線を落とす。


「まぁ、それはいいよ。深くは聞かないし。後田君に言いたかったのは別の事だから」


「……何を言いに来たんだ?」


 俺がそう言うと前野も少し間を置いてから、先を続ける。


「愛留ちゃんが言っていた近所の夏祭り。私も行くから」


 前野が言ってきた言葉に俺は少し拍子抜けする。横山も前野を誘っていたし、当然来るものだと思っていたからだ。


「……あぁ。そうか」


「それだけ。じゃあね」


「……本当にそれだけなのか?」


「うん。それだけ、宣言しに来ただけ」


 そう言って、前野はそのまま俺に背を向けて歩いていってしまった。


 アイツ……ただ、それだけのことを言うために家の前で待っていたというのか? 俺は混乱してしまう。


 ますます、前野真奈美という人間のことがわからなくなってくるのであった。

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