第172話 用件は

 それから、俺は端井の言うとおりに近くの駅前に向かった。


 無人島から帰ってきても相変わらず暑い日が続いている。暑さに辟易としながらも、俺はなんとか駅前にたどり着くことができた。


 と、しばらく待っていると、見覚えのある人物がこちらにやってくる。


 この暑いのに黒い服、そして、長いスカート……逆に目立つ髪の長い人物はすぐに発見することができた。


「どうも、お待たせしました」


「……お前、それ、暑くないのか?」


「はい? 別に普通ですけど」


 むしろ見ているこっちが暑くなるのだが……とは言わないでおいた。


「……で、一体何の用なんだ?」


「その前に、場所、移しましょう。おそらく、時間かかると思うので」


「……時間がかかる? そうなのか?」


「はい……もしかして、あんまり時間ありませんか?」


「……いや、別に今日は予定はない」


「そうですか。暇で何よりです。場所は……あそこで良いですか?」


 そう言って、端井は近くのファミレスを指差す。そこは、かつて横山と入ったファミレスだった。


 そのファミレスに端井と入るのは……なんだか居心地が悪いような気がした。


「どうしました? ファミレス、嫌なんですか?」


「……いや、別に」


 かといって、他に選択肢もなく、俺と端井はファミレスに入ることにしたのだった。

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