第158話 よろしく

「じゃあ……私はこれで」


 いつのまにか夕方になっていた。端井は申し訳無さそうに背を丸めながら玄関から出ていこうとする。


「……あぁ。わざわざありがとうな」


 俺がそう言うと端井は目を丸くして俺を見る。俺も……なんでそんなことを言ったのかよくわからなかった。


「別に……お礼を言われる筋合いなんてありませんよ」


「……でも、お前、俺のこと、嫌いだって言っていただろ。嫌いなやつの家にわざわざ来てもらったわけだし」


 俺がそう言うと、端井は思い出したかのようで、さらに気まずそうな顔で俺を見る。


「あー……あれ、ですね……」


 それから気まずそうに視線を俺から反らしてから、苦笑いしながら俺を見る。


「……その……嘘です」


「……嘘?」


「え、えぇ……嘘、というか……そこまで嫌っていたというわけではなくてですね……私は、真奈美様のためを思って……」


 それから端井はなぜか困ったような顔で俺を見る。そんな目で見られても俺も困る。


「……まぁ、よくわからないが……今はとにかく、嫌われていないってことか?」


 俺がそう言うと端井はキョトンとした顔をしていたが、しばらくすると、ゆっくりと小さく頷いた。


「えぇ……ですから、これからは……よろしくお願いします」


「……あぁ、よろしく」


 そう言うと、先程まで申し訳無さそうに丸まっていた背中を正して端井は玄関の扉に手をかける。


「じゃあ……無人島、頑張って下さい。私……応援しますから」


 そう言うと、端井はそのまま扉を出ていった。


「……応援、ねぇ」


 応援ってのは一体どういうことかわからなかったが……なんとなくだが、もう端井から刺々しい感じは受けなくなっていったのだった。

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