第155話 嗚咽

 しばらくの間、俺と端井の間では沈黙が流れた。


 端井が急に言いだしてきた「謝りに来た」という言葉……いきなりそんなことを言われてもまるで意味がわからなかった。


 そもそも、どうしていきなり謝りに来る必要がある? 端井は俺のことを完全に敵視していたはずである。


「……えっと、なんで?」


 俺は思わず思ったことをそのまま口に出してしまった。端井は驚いたように俺のことを見る。


「なんで、って……いえ、その……さ、さすがに前回の件は悪かったかなぁ、って……」


「……前回の件って、中原をプールに連れてきたこと?」


 俺がそう言うと端井は小さく頷いた。


「あ、あの後……その……真奈美様から連絡がありまして……」


「……え? 前野から?」


 端井と前野が連絡を取り合えるようになっているとは思わなかった。まぁ、家にも招いているし、連絡くらい取れてもおかしくないか……。


「その……直々に、やりすぎは良くない、って……」


「……やりすぎっていうか……別に俺は……」


 すると、端井は急に涙目になって俺のことを見る。


「後田さん……その……私……真奈美様に嫌われちゃったんですかね……?」


「……え? な、なんで?」


「だ、だってぇ~……真奈美様の声、とっても……とっても怖かったんですよ~……!」


 そう言って端井は嗚咽を漏らして泣き出してしまった。俺は困惑するばかりで、そんな端井を見ていることしかできないのだった。

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