第142話 怒り

「えっと……その……ホントに、ごめん!」


 プールからの帰り道、横山は申し訳無さそうに頭を下げた。


「……何が?」


「その……真治と盛り上がっちゃって……なんというか、後田君のこと、完全にほったらかしにしちゃって……」


 ……逆に謝られると嫌な気分になった。俺はムッとしてしまいそうな顔をなんとか平静を装う。


「……別に。気にしてない」


「気にしてないって……でも……」


「……それより、良かったのか? 中原に誘われてたんじゃないのか?」


 プールが終わった後、横山は中原に話しかけられていた。中原は気まずそうに俺を見ながら、中原の誘いを断っていた。


「い、いいんだって! アイツとはどうせ、また会うんだし……」


 また、会うか……そりゃあ、中原が言っていたように、横山と中原は幼馴染なんだ。毎日会うこともおかしくない。


 ……じゃあ、なぜ俺をプールに誘ってきた? 中原ではなく、俺をプールに誘った理由って……なんだ?


 ……いや、理由はなんとなくわかっている。そして、今日の楽しそうな……今まで俺が見たことがなかった、中原の笑顔を見ればわかった。


 横山が本当は誰と一緒にいるべきなのか、を。


「あ、でも! 泳げるようには少しなったんだよね! これで無人島に行っても恥をかかないで済む――」


「……行きたくない」


 俺は怒りを抑えられず、そんな言葉を出してしまった。横山は固まってしまった。


 しかし……俺はそれでも言葉を取り消すつもりはなかった。


「……当分、連絡もしないでくれ」


 俺はそれだけ言って、横山を残したまま、その場を立ち去ってしまったのであった。

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