第122話 敗北
「ねぇ、そんなに機嫌悪くしないでよ」
デパートからの帰り道、前野は背後からそんなことを言ってくるが……俺は無視して歩いていた。
前野に怒っているというよりも……俺自身に腹が立っていた。なんで俺は、前野の水着姿で……なんというか……興奮してしまったのだろうか。
「別に私はいいよ。後田君が私の水着姿、案外気に入っちゃったとしても」
「……そういうわけじゃない」
俺は振り返って前野のことを見る。前野は嬉しそうに俺のことを見ていた。
「むしろ、嬉しいよ」
そう言われて俺はさすがに認めざるを得なかった。
「……あぁ。そうだよ。俺だって、そりゃあ……クラスメイトのそういう格好、見たことなかったし……」
「何? 後田君、何か言った?」
聞こえていてわざと聞いているのか、聞こえていないのか……わからなかったが、とにかく、俺は酷く恥ずかしい思いをしていた。
「で、もう一度聞いていいかな?」
「……何を?」
「私の水着、似合ってたかな?」
前野は答えを期待する子供のような顔で俺のことを見ている。俺は正直、答えたくなかったが……そんな表情をされては答えざるを得なかった。
「……似合ってたんじゃないか」
俺がそう言うと前野は満足そうな顔をする。俺はなぜかその時、前野に完全に敗北してしまった気持ちになった。
もっとも、その敗北は……気分悪い敗北ではなかったのだけれど。
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