第121話 現実感
「……で、着替えたのか?」
結局、俺は前野が試着する所まで付き合わされることになった。
「まだ。開けたらダメだよ」
試着室からそんなことを言う前野。
……仮に俺が開けたりしたらどうなるというのだ。まぁ、そもそも、そんなこと、できるわけもないし、するつもりもないが……。
待っている身というのは時間が長く感じるものだった。それからしばらくして……いきなり試着室のカーテンが開いた。
「どう?」
その先には……水着姿の前野が立っていた。
それは、なんだか、酷く現実感のない光景だった。
いつも席の前でつまらなそうに座っている前野が今俺の前で水着姿になっている……字面だけだとやはり現実とは思えなかった。
「ちょっと、後田君。感想は?」
「……まぁ、いいんじゃないか」
俺は目を逸しながらそんなことを言う。正直、数秒直視するのも限界だった。
おそらく、直視してしまった場合、前野のことをまじまじと見てしまうだろう。それはもう……男子ならば仕方のないことなのだが、なんだか悔しかったのだ。
「ふーん。そう。じゃあ、これにしよう」
「……あぁ。俺はもうエスカレーターの方で待っているからな」
俺が行こうとすると前野はニヤリと微笑む。
「これ、もう買うんだから、制服の下に着たままにしちゃおうかな?」
俺は思わず言葉に詰まってしまったが、なるべくそんな姿の前野を想像しないようしながら、そのままエスカレーターの方に向かったのだった。
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