第114話 呼び出し

 そして、俺が色々と苦労して翌日のことであった。


「おい」


 登校してから、またしても廊下を歩いているときに俺はいきなり背後から話しかけられた。


 ……今日は男子の声だ。なんとなく嫌な予感がする。いや、そもそも、俺に対する呼びかけではないかもしれない。きっとそうだ。そうであってほしい。


 俺はそう願いながら、そのまま歩いていってしまおうと思った。


「おい! 後田」


 今度は先程よりも強い口調で呼びかけられた。そして、名前を呼ばれたので間違いなく俺に対する呼びかけであることが確定してしまった。


 俺は恐る恐る振り返る。そこには見覚えのある顔の男子が不機嫌そうに立っていた。


「呼んでいるんだからさっさと返事しろよ」


 乱暴にそう言う男子……あぁ、そうだ。コイツは確か横山の……。


「……悪い。えっと……中原だよね?」


 俺がそう言うと中原は少しムッとした顔をしたが、小さくため息を付いて俺をにらみつける。


「お前、今日昼休み暇だよな?」


「……特になにもない」


「校舎裏に来い。いいな」


 短くそれだけ言うと、中原は行ってしまった。見ると、中原の背後では、ウチのクラスの陽キャグループが中原を見ていた。


「真治、ボコボコしちゃダメだよ~」


「そうそう。程々にしておいてあげなって」


 ニヤニヤしながらそう言う取り巻きに大して何も答えない中原。


 ただ、なんとなくだが……今回は別に殴られたりしないんだろうなと、それだけは俺は確信できたのだった。

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