第113話 存在

「……どういう意味だ?」


 俺は思わず眉を顰めながら、端井の方へ振り返る。端井は嬉しそうに嗤っていた。


「どういうって……そのままの意味ですよ。後田さんは真奈美様と横山さん、どっちが好きなんです?」


 どっちが好き……そんなの考えたことなかった。というか。俺はあの二人のことが好きなのか?


 好きっていうのは、つまり、男女のそういう関係というか……。


「あれ? もしかして、変に意識しちゃいました?」


 いきなり耳のそばで端井の声が聞こえて俺は思わず驚いてしまう。端井はニタニタしながら俺のことを見ていた。


「……お前に言う義務なんてないだろ」


「あはは! まぁ……それもそうですね」


「……お前は、一体どうしたいんだ? 俺はお前になにか嫌なことをしたか?」


 俺がそう言うと端井は目を丸くして俺のことを見る。


「えぇ。してますよ。存在です」


「……は? 存在?」


「えぇ。アナタの存在そのものが不愉快です」


 そんなことを言われると……さすがにショックだった。どうやら予想以上に俺は端井に嫌われているようである。


「……そんなの、どうしようもないじゃないか」


「えぇ。そうです。どうしようもないんです。あ。ちなみに言っておくと、別にアナタのこと嫌いじゃないですよ。存在が不愉快なだけで」


 そう言うと、端井は不意に真顔になって、そのまま急に興味を無くしたようにそのまま歩きだす。


「だから……このままアナタに都合の良い展開でいられると、思わないことです」


 と、俺の横を通るときに、ボソッと端井はそう言った。


 俺はとっさに振り返る。端井はニヤリと嗤ってそのまま俺に背を向けて歩いていってしまった。


 なんだか……端井も怖いと感じてしまうのだった。

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