第96話 出かける時に

 それから数日後。その日こそは、前野の家で勉強会をやる日となった。


 前野からは事前に家の案内図を携帯に送ってもらっていた。なので、一人で前野の家まで行くことになる。


 そして、そろそろ出発しなければならない時間になった、その時だった。


 ピンポーンと、間の抜けたチャイムの音が響く。どうやら誰かが来たようだった。


 出かけるという時に限って、訪問客というのはやってくるものである。俺は仕方なくインターフォンに対応する。


 見ると、玄関を写したカメラには長い髪の毛に、紺のブラウス、黒いスカートの女性を写している。顔が隠れていてわからない……誰だろう。


「えっと……どなたですか?」


 俺が問いかけても答えはない。仕方なく俺はそのまま玄関に向かい、ドアを開ける。


「え」


 ドアを開けたその先にいたのは――


「……どうも」


 私服姿の端井霧子が、恥ずかしそうな様子で立っていた。


「……な、なんで?」


 俺が訊ねると、端井はとても不機嫌そうな表情で俺のことを睨む。


「わ、私は……聞いてないんです」


「……聞いてないって?」


「真奈美様の家の場所ですよ! 教えてもらっていないんです! そりゃ、ストーカーだから知っているけど! 知っていたらおかしいじゃないですか!」


 ……なるほど。前野は端井には家の場所を教えなかったのか。だから、端井は俺の家に訪ねてきてしまった、ということか。


「……とりあえず、一緒に行くか」


 俺がそう言うと端井は小さく頷いたのであった。

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