第89話 誘いの言葉

 そして、俺と前野は横山の家を出ていた。


 横山は家から出る時、俺と前野に「くれぐれも自分の家でのことを言わないでほしい」と言っていた。やはり、どうにも横山は他人に自分の家のことを知られたくないようである。


「横山さんの家、楽しかったね」


 並んで歩いていると、前野がいきなり俺にそう言ってきた。


「……そうだな。まぁ、次回は普通に学校の図書室とかで勉強をすればいいと思うけどな」


「そうだね。やっぱり他人の家はどうにも落ち着かないし」


 おのセリフを聞いて俺は思わず前野の事を見てしまう。


「ん? どうしたの?」


「……お前、そんなこと言って……普通に俺の家に上がりこんできたじゃないか」


「あぁ。そうだね。まぁ、後田君の家はなんというか……落ち着ける感じだったよ。自分の家みたいに」


「……なんじゃそりゃ。俺の家はお前の家じゃないって」


「じゃあ……今度は私の家に来てみる?」


 と、いきなり立ち止まって前野は俺にそう言った。


「……横山も誘ってか? お前の家、横山の家みたいに広い感じなのか?」


「違う。普通の家だよ。それに……横山さんは誘わない」


 そういう前野の目は真剣だった。俺は今、自分が前野に何を言われているのか、まだ理解していなかった。


「……つまり、それって……」


「うん。後田君一人で、私の家に来てもらう」


 それはまるで宣戦布告のような……決意を感じさせる誘い言葉なのであった。

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