第88話 気付かない優しさ
「えっと……ウチはだいたいいつもこんな感じの夕食なんだけど……変かな?」
目の前の食事を見て、俺と前野は絶句してしまった。
まるで高級ホテルのコース料理のようだった。というか、少なくとも俺は一度も食べたことがない。
ステーキとか、スープとか……なんというか、普段絶対に家では食べられない料理ばかりだった。
「……いや、変ではないが」
「横山さんって……もしかして、お金持ち?」
と、そこで前野が奇妙な質問をする。そんなこと、聞かなくても俺だってわかっている。
しかし、その質問をされた横山は少し気まずそうな表情をする。
「え……そ、そんなことないって! このお肉だって安いし……た、たまたま、下村が料理が上手いだけだから!」
……個々まできてなんとなく理解できてきたが、どうやら横山は……自分が金持ちだということを隠したいようである。
「ふーん。そうなんだ」
前野は特に興味もない感じで納得したようである。俺も何も聞かずに席についた。ここは、何も気づかないように振る舞うのが正解なのだろう。
「だ、だからさ! 遠慮なく食べてよ!」
言われるままに俺と前野は食事を開始する。味も……間違いなく高級ホテルのようなものだった。
「うん。とっても美味しい」
前野がそう言うと横山は安心したようだった。それにしても……どうして横山は自分が金持ちだということを隠そうとしているのかは疑問だった。
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