第75話 和解

 それから、嘘みたいに前野と横山は仲よさげに話していた。


 学校ではそんなことはなかったのに、前からの知り合い……いや、友達のように、前野も横山を普通に受け入れている。


 俺だけが……何のためにここにやってきたのか、わからなくなってしまった。


「あ……そ、そうだ!」


 と、急に横山が話を一旦途切る。


「どうしたの?」


「えっと……ウチ、飲み物でも買ってくるよ! だから、後田君、ちょっと待っててね!」


「……は? ちょっと、お前……」


 俺が何かを言おうとする前に、横山は行ってしまった。俺と前野がその場に二人きりになる。


 ……何を話せばいいのだろう。いつも、俺は前野と何を話していた? なんで、俺は今こんなに焦っているのだろう?


「……プッ。ふふっ……」


 と、いきなり笑ったのは……前野だった。俺は思わず困惑してしまう。


「……なんで、笑うんだ?」


「ううん。なんでもない。ただ、後田君が、なんだかすごく悩んでいるみたいで、それが可笑しかったから」


「……なんだよ。それ……俺は、お前に……」


 その先を言おうとしたが……出てこなかった。はっきり言えばいいのだ。


 俺は前野に対して、申し訳無さを感じていた、と。


「はぁ。それにしても、私も随分とぼんやりしてたなぁ」


「……どういうことだ?」


「聞いてなかったの? 横山さんにも言ったけど、ぼんやりしていてコケちゃったの。それで、こんなことになっちゃったわけ」


 そう言って肩をすくめる前野。俺は固定されている前野の足を見るしかなかった。


「……いつ、治るんだ?」


「さぁ? でも、あんまり長くはかからないって」


 そう言って前野は俺のことを見る。俺は……少し間を置いたあとで、次の言葉を続ける。


「……そうか。早く学校、戻ってこられるといいな」


 俺の言葉を満足そうに聞いている前野。少しイラッとしたが……俺も悪い気分ではないのであった。

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