第53話 亀裂
そして、それから数日後。
俺と前野はいつものように会話していた。というよりも前野の方から話しかけてきたのだが。
俺は前野の話を適当に聞き流しながら、今一度前野のことをよく見る。
整った顔、綺麗な髪、透き通った瞳……よく考えればどうしてコイツが俺に構ってくるのだろう。
考えてみれば不思議な話だ。俺は基本的にはクラスの後方にいる陰キャだ。それなのに、こんなヤツが俺に話しかけてくること自体がおかしい。
「ねぇ、後田君。聞いている?」
と、前野が興り気味に俺にそう言う。こんなことを思ってしまうのも端井のせいだとは思うが……俺としても不思議でならないのである。
「……なぁ。前野、お前さ……俺と話していて楽しいか?」
俺は思わずそう聞いてしまった。と、前野は目を丸くして俺のことを見ている。
「後田君は、私と話していても楽しくない?」
前野の質問に俺は戸惑ってしまった。楽しい……楽しいかと聞かれると難しかった。俺は楽しいという感覚がよくわからない。基本的に一人で完結してきたからだ。
しかし、俺の沈黙は前野には答えに映ってしまったようだった。
「……そっか。なんか……ごめんね」
そう言って前野は俺に背を向けてしまった。取り返しのつかないことをしてしまった……流石に俺もそう理解していた。
だけど、同時になぜか……これで良かったと思ってしまうのだった。
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