第30話 お礼

「……それで、ここはこの公式を使うと、簡単に解けるようになってだな」


 結局、俺はテストが迫る中、休み時間には、前野に勉強を教えることになってしまった。


 前野はたしかに自己申告したとおり、確かに、あまり勉強ができる感じではなかったが、教えると理解はしてくれたので、頭は悪くないのだと思った。


「なるほど。後田君に説明されて理解できたよ」


「……今まで理解できてなかったのか。じゃあ、誰かに聞けばよかったのに」


「誰かって? 私、聞く相手いないんだけど」


 微妙に反応しづらい言葉をなげかけてくる前野。俺は返答せずにそのまま教えるのを続ける。


 それから休み時間が終了する直前まで俺は前野に勉強を教えていた。


「ふぅ。なんだか、少し頭が良くなった気がするね」


「……そうか。そりゃあ、良かった」


「それにしても、後田君、勉強できるんだね。驚いたよ」


「……まぁ、お前は俺のこと、頭悪そうだと思っていたものな」


「まぁ、それはそうだけど。とにかく、もし、今回赤点とらなかったら、何かお礼をしなくちゃね」


 そう言って優しく俺に微笑みかける前野。


 まぁ、どうせ、またぬいぐるみとか、キーホルダーなんだろうけど……お礼、という言葉に情けないながらも期待してしまうのであった。

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