電子マネー・美術館・復讐

 電子マネーで払うつもりも必要もなかったのだが、クレジットカードをもう持っていないことを失念していて身近にあった支払い方法がそれしか残っていなかったのでそうしただけだ。

 パソコンの画面に表示された二次元バーコードを自分のスマホからカメラを起動して読み取る。支払い金額は一定なので特に料金設定をするまでもなく、支払い確認画面へと遷移する。入場料の割には高めの設定だけれど、仕方のない必要経費だと割り切って、確認ボタンに触れた。

 時代はリモートだ。ヴァーチャル空間で美術館の中を見学できるなんてついこの前まで想像したりもしなかった。けれど、今はこうやって料金を払うだけで自宅から美術館の中を移動できることに今は少し感謝している。

 復讐をするのだ。そのためにもこの美術館の館内をくまなく頭に入れておく必要があった。

 たいして美術や芸術に興味がないので、どうしても頭に入ってこなくて一度や二度館内を回ったところで何がどこにあるのかが分からないままになってしまう。これじゃだめだと思いなし、ほこりをかぶったノートを引っ張り出してくる。

 しかし、出来上がったノートを見返してみても何が何だか分からない文字の羅列があるだけで、まったく解読できないものがそこにあった。

 諦めるわけにはいかないけれど、がんばるのも疲れてしまった。復讐なんてやめてしまえば楽になれると思うのだけれど、彼女のあの目を思い出すと再び闘志が燃え上がってくるのだ。人を軽蔑する目。あれだけはいつ瞼を閉じてもすぐに浮かび上がってくる。それくらいの事を彼女はしたのだ。

 復讐の決行日。彼女は待ち合わせ時間よりも早く来たのか、待ち合わせの場所に辿り着いた時にはすでにそこにいた。冷静を装いながら軽くあいさつを交わす。これはジャブだ。牽制だ。と言い聞かせながら、笑顔が引きつらない様に努力は欠かさない。

 さて勉強をした成果を見せる時だ。

 この前の博物館では彼女の博識の前に、散々恥を掻かされたのだ今回はこっちが知識の前に彼女をひれ伏してやる。そう意気込んで入った博物館は、勉強したヴァーチャル空間と装いが変わっていた。

 つい先日リニューアルをしたばかりらしい。その期間を埋めるためのヴァーチャル空間での展示だったとも教えてくれた。ほかでもない彼女にだ。

 また、恥を掻かされた。次はどこへ行く約束をして復讐をしてやろうか考え始める。それがなんとなく楽しみになっているのに気づかないまま。

 

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