マチュピチュ・魔法陣・純米酒

 人生における至高の時間を過ごすために今、準備をひたすらに進めている。ことの発端は酔いに酔ったお盆の夜の事だった。その日は久しぶりの帰省と親戚の集まりということもあって、酒が進んだ。最近の趣味は日本酒、それも純米酒だった。だから、帰ってくる手見上げに質の良いものを持って帰ったのだ。それが好評だったし、実際美味しかった。それで飲みすぎてしまったのはある。調子に乗って家にある酒を味見し始めたのだ。台所にあったビール、焼酎、ワイン、泡盛、あらゆる酒という酒が気が付くとほとんどが飲み干されてしまった。それでもまだ飲み足りなかった一族はついには蔵に手を出した。実家は田舎では有名な名家で大きな蔵がある。そこには昔の贈り物が眠っている可能性がある宝物庫の様にも思え探索に乗りだしたのだ。しかし、そこに目当ての酒はなかった。皆は落胆のあまり肩を落とし互いの肩を組みあってお互いを慰めた。その時だ、一族の中でも最年少の成人がそれを見つけ出した。それは古めかしい木箱の中に入っている。かぶっているほこりを手で払うと数人がせき込んだ。なぜそこまでその箱にみなが注目したのには理由がある。

『秘伝の純米酒』

 そう達筆な筆文字で木箱に貼られた紙にそう書いてあったのだ。気にならないはずがない。中には紙が折りたたまれて入っていてそこにはズラッと文字が書かれていた。長きの封印から解き放たれたそれには難しいことがたくさん書いてあったが、かいつまむと簡単な内容だった。

「マチュピチュで作られた純米酒はこの上なく美味い」

 マチュピチュと言えば、ペルーはアステカ山麓にあるインカ文明がが築き上げたとされる天空都市の名だ。天空と言っても実際に空に浮かんでいるわけではない。尾根に作られたその場所はまるで空に浮かんでいるような絶景を見ることが出来るからそう呼ばれている。しかし、なぜそこに純米酒が存在しそこの酒が美味いと書かれた書面がこの蔵に存在するのかだれも分からない。

 しかし、気になって仕方がない。ネットで調べてもそんな場所で純米酒が飲めるなんて情報が出てくるはずもない。それでも何かがあると信じたくなった数名の親族が立ちかがった。

 マチュピチュに行こう。そのための準備を必死に行っているのだ。その中で必要なものに一つ懸念するものがあった。蔵で見つけた書面に書いてあったのだが、魔法陣が必要だというのだ。グラスに注いだ純米酒を魔法陣の真ん中に置いて、一晩寝かせるらしい。となれば必要なのはその儀式みたいななにかであって、マチュピチュと言う土地に関係はないのではないのかそういう話題が波紋を呼んだ。

 ならば行かずにその儀式みたいななにかを行えばいいのではないのかと言う一派が大きくなっていった。なんてことはない、行くのがめんどくさくなっているだけだ。

 かくして、出発の準備は儀式の準備へと変わっていく。とびきり美味しい純米酒を用意。魔法陣を家の庭に描いていく。幾何学模様のそれは書面に書いてあった通りに引いたが、あっているかどうか不安になるくらい複雑だった。

 準備は整い、グラスに純米酒が注がれる。そして魔法陣の中心にそれは置かれ。ほこりが入らないようにラップがその上に置かれた。これでいいんだよな。誰かがつぶやいたのが聞こえたがだれも答えられないでいた。あまりに滑稽な姿にみな疑問を持っていたのだ。しかし、ここまで来て引き下がれるはずもなく一晩を待った。グラスに注ぎきれなかった純米酒を飲みながら待った。気が付くと全員が眠り落ちていた。当然な結果と言えよう。そして、朝気が付いた一人が騒いだ。

「中身がなくなっている!」

 魔法陣の中心にあったグラスは空っぽになっている。なにがあったのか、皆が起きては騒ぐのを繰り返す。そして最後まで寝ていた奴がばつが悪そうに言った。

「いや、足りなかったんで飲んじまった」

 味は!?おいしかったのか。皆はひっきりなしに問い詰め続ける。

「おいしかった!その前に飲んでいたのとおんなじくらい!」

 そりゃ、同じ酒なのだから当たり前だろうと皆が突っ込んだ。その中でひとりマチュピチュに行く準備を始めたんだ。ここまで来たら引き下がれなかった。

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