除霊・PS5・速度制限
周りの景色が線にしか見えない。ハンドルを握る手も、こわばっていて自分のものではないのかと思うくらいだ。周りの車も随分と速いはずだが、それすらも追い抜いているこの車は周りからどう見えているのだろう。違法なスピードで高速道路をかっ飛ばしているイカれたやろうに見えているのかもしれない。
車通りの少ない時間帯であることが幸いしているのは間違いない。多すぎる車を避けながら運転する技術などあるはずもない。冷や汗を垂らしながらの運転は心臓にいいものではない。
なんだって高速道路をかっ飛ばさなければならないのか。いやすべては最新ゲーム機PS5を買うためだ。
この依頼が成功すれば依頼料がたんまり入ってくるのだ。某通販サイトで高額で出品されているものだろうが買えてしまうだけの依頼だったので即ふたつ返事だった。あのPVを見た時の感動はすさまじかった。鳥肌がしばらくの間、収まらなかったのを今でもリアルに思い出せる。あの感動を体験できるのであればこの程度のスピード体験。さほど問題でもなかろう。
しかしマズイ少しもこの依頼が解決できる気がしない。しまいには遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。察してしまう。この車を止めるために出動してきたのだと。
高速道路の速度制限なんてとうに通り越している速度でずっと走り続けているのだ当然だろう。しかし、止まるわけにはいかない。この先バリケードでも用意してあるのか。そうしたら突っ切れる自信なんてない。そこで終わりだ。止まってしまえばどうなってしまうかわからない以上。どうにかする手段を探すしかないのだが……。
ターボばあちゃん。都市伝説のひとつ。車と並走することができる老婆の姿をした妖怪とされている。それが今、となりにいた。そして、この妖怪の除霊が今回の依頼内容だった。
除霊の仕方なんて知らなかった。というか実際に現れるなんて誰も思っていなかった。依頼人の与太話だと高を括って受けたのだ。生きて帰ってきたら膨大な依頼料をもらえれる予定だったのだ。それが、まさか、この令和の時代に都市伝説の妖怪が現れるなんて誰が信じてくれようか。
ドライブレコーダーにだって当然のように映っていない。もはや、スピード違反の現行犯で捕まるのも時間の問題と言える。
ターボばあちゃんが現れたんですと、叫び続ければ頭のおかしいやつと認定されて罪からは逃れられるかもしれない。そんなことすら頭に浮かぶ。それくらいに追いつめられている。
止まってターボばあちゃんに追い抜かれた死ぬ。そんな一文を見つけてしまったからにはそれは避けなければならない重要事項になっていた。好奇心で試したなんて試した結果、死んだなんて笑い話にもなりゃしない。
必死になってアクセルをふかし続ける。しかし、それにだって限界はある。いつハンドル操作をミスしてもおかしくない状況。後ろからはパトカー。前にはバリケード。そして隣にはターボばあちゃん。
四方を囲まれた。五里霧中だ。最新のゲームになんて目を眩ませなければこんなことにならなかったのかと思わないでもない。
しかし、あの画質。躍動感。リアルな体験はあれでないと体験できないのだ。
そう思ってから気づいた。
今。この瞬間こそ、PS5をプレイするより、リアルな体験なのではなのかと。それに気づいた瞬間。全てがどうでもよくなって、踏み続けていたアクセルから足を離した。
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