第20話 オーガの巣窟へ

 俺達は軽い朝食を済ませてから身支度を済ますと、バリケードをはずしてビルの外へ出た。

 朝日が昇って明るく成ってきたばかりだ。

 何もする事がないので、早く寝て早く起きてしまった所為で他意は無かった。



「オーガ達が、まだ寝ているといいね」


「そうだね、ソウちゃん」



「ソウタ、僕は武器を変えるよ、今使ってる鉾は軽過ぎるからさ」


「何にするんだい?ユウト」


「軽巡洋艦にあったバルディッシュにするよ、柄も金属製なんだ、ほらこれだよ」


 ユウトがアイテムボックスから武器を取り出して見せてくれた。



「ふ~ん、柄の延長先上に大きな半月状の刃が付いてるから、三国志に出てくる関羽の青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうみたいだね」


「関羽が馬上で片手で振り回してるやつだよね。盾を持ちながらでも片手で振り回せるかと思ったんだよ」


「ほう、想像しただけでかっこいいね」



 皆から離れて、ユウトが片手で軽く振り回した。


 ビュゥウウウウウンッ! 


 と、風切り音と共に唸りが聞こえてくる。



「片手で扱う事が出来るね、大丈夫そうだよ」


「迫力があっていいね」


「うん」


 それから文芸部全員で新しい魔法の練習をしてみることにする。昨日サリーナから提案された魔法を試し打ちしてみたが、全て問題無く発動できる事を確認した。





「それじゃあ、出発しよう!」


「「「「リョウカ~イ」」」」


 俺達は昨日と同じ2列になって、ルドルフタワーへと向かう。

 目的地はスグそこだ。



 しばらく進むとサングラスのレーダーマップに反応があり、後ろを振り返ると9人の帝国民が武装して着いて来ていた。

 レーダーには帝国民達が青色の光点で示されている。

 前方には魔物と思われる赤色の光点が、無数に固まって見えていた。



『レーダーの赤色の光点は敵対生物を表しています。青色は友好的な生物です。因みにどちらか判別されてない場合は黄色の光点で見えます』


「ありがとう、サッちゃん」


 ちなみにサッちゃんの姿は、女子達のアイマスク、ユウトの仮面、俺のサングラスでしか見ることができない。

 帝国民やミフィーリアにはサッちゃんの姿は見えないし、声も聞こえていなかった。



 見覚えのある男が近づいて来て口を開く。


「おはよう、悪いが俺達も一緒に戦わせてくれ、このチャンスにダンジョン核を破壊しないと、もう2度と機会が訪れないかもしれないからな」


「はい、どうぞ。 最初に遠距離魔法攻撃をしますから、気を付けてくださいね」


「あぁ、足手纏いにならない様に後ろから付いて行くよ。それに俺達が倒れても放って置いてくれていいんだ。最後の1人になってもダンジョン核に向かう決心でいるからな」


「「「まぁ……」」」



「御決心は分かりました。そんな事に成らずに全員生き残れるように頑張りましょう」


「あぁ……」




 ルドルフタワー前には広場があった。大きな噴水があり、それを囲むように沢山のオーガが寝ているのがみえる。



「ねぇねぇ、ソウちゃん。先ず魔法の練習をするでしょう?」


「そうだったね。せっかくだから噴水の周りのオーガ達を目掛けて撃ってみようか」


「うん」


 噴水迄は100メートルぐらいの距離だった。



「サッちゃん、ここからエクスプロージョンが届くかな?」


『魔法の有効範囲は通常30メートルぐらいで、上級者でも50メートル程と言われています。ですが皆さんなら届くかもしれません。失敗してもマナが減るだけですから、オーガが寝ている今のうちに試してみましょう』



 魔法には有効範囲があるという。

 魔物等が回避し難い速度を維持しつつダメージを与える事が出来るのは、通常はせいぜい30メートルぐらい迄らしい。

 それ以上に距離が遠くなると、速度が下がり回避され易くなり、威力も落ちてしまう。ただ遠くに飛ばすだけなら50メートル程は飛ばせるが、それだと魔物にダメージを与える確率がグ~ンと下がってしまうのだった。

 陸上競技の槍投げ等の飛距離を争う競技では、審判員がフィールド上に居て容易に槍を避けているのを想像して頂けると理解してもらえると思う。

 ただし隊列を組んで一斉に槍や弓を射てば、飛距離範囲が攻撃有効範囲となる。よく訓練された兵隊集団が戦場で大きな威力を見せるのはこの為である。



「ありがとうサリえもん。それじゃあ皆、いくよ」


「まっ、待ってよお兄ちゃん。いくら何でも離れすぎて……」


「せ~の」

「「「「「【エクスプロージョン】!」」」」」


「……無詠唱かよ!」


 ドドドドドォオオオオオオオオオオンッ!

 ドッガラガァアアアアアアアアアアンッ! 


 大きな炎と煙がドームのように膨れ上がり、広場一面に広がっていく。



「やばい、【リフレクションシールド】!」

 ソウタが慌てて魔法を唱えた。


 ブゥウウウウウウウウウウンッ!


 透明な光るバリアーが、ソウタ達一行を半球状にカバーする。

 爆風と破片がシールドに当たって、バチバチと音を立てて跳ね返っていた。



「へえ、こんなに威力が有るとは思わなかったね!」


「凄い爆風だったな、ソウタ。咄嗟に魔法を思い出してくれて助かったよ」


「ゲームでよく使っていた魔法だからね」



「凄いのはあんた達だよ。エクスプロージョンを使える事も驚きだけど、無詠唱ってどういうことだよ!」


「はぁ? 詠唱って魔法名を言ったことしかないですけど……」


「えっ、本当かよ。あんた達の惑星では普通のことなのか?」


「分かりませんけど。ほら、煙が晴れて来ましたよ」



 噴水は跡形もなく消えていた。

 石畳の広場は大きく陥没して地面がむき出しになっていて、オーガの姿は何処にも残っていない。

 ルドルフタワーの前面も、爆発の影響を受けて半壊していた。

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