本当に強情な奴だ
「……」
一気にまくし立てた僕に、ヒャクは何も言い返せずに俯いてしまった。それでいて、着物の裾を堅く握り締めて。
十二やそこらの子供なら当然だ。僕も、別に彼女が言い返してくることを期待していたわけじゃない。
彼女を言い負かしたいわけでもない。
ただ、僕の<本性>を知ってもらいたかっただけだ。人間達が望んでいるような立派な存在じゃないことを。
その事実に、彼女は打ちひしがれていた。しかも、自分の母親と同じ姿をしたのに言われたことで余計に堪えているんだろう。
小さな体がさらに小さく見える。なのに、それでいて、ヒャクの心は折れていなかった。着物の裾を硬く握った手がその証だ。
彼女の小さな体の中で、いろいろな想いが渦巻いているのが僕には分かってしまう。
『強情な奴だ……』
そうも思う。
吹けば飛ぶようなちっぽけな存在のクセに、彼女は僕に立ち向かおうとしているんだからな。
『お前達人間は、お前達人間の力で生きろ』
僕がそう言ったのを、やって見せようとしているんだろう。
そして、彼女の中で何かが固まるのが見えた。
「……!」
それに突き上げられるようにヒャクは顔を上げて、真っ直ぐに僕を見る。
「…では、どうあっても私達の願いは聞き届けていただけないんでしょうか……?」
真っ直ぐな目と同じく、真っ直ぐな言葉が僕を射る。けれど、そんな程度じゃまだまだだな。
「無論だ」
彼女の目を見詰め返しながら、僕も真っ直ぐに返す。
けれど、それを受けたヒャクの口元がほんの少し、緩むのが分かった。彼女の目に、さらに力がこもる。
「ならばどうして、私を助けてくださったのですか?」
「……ただの気まぐれだ……」
間髪入れずに冷たく切り捨てる僕に、彼女はそれでも引き下がらない。それどころか、
「嘘ですね……!」
静かに、でも、それまで以上に力のこもった言葉を発する。
「……」
僕は、彼女の視線に背を向けて、
「これ以上は、話しても無駄だな……とにかく僕は、もう、お前達のために何かをするつもりはない……」
吐き捨てて、戸に手を掛けた。その上で、
「この家は好きに使え……」
それだけを告げて家を出た。
なおも真っ直ぐに僕を見詰めてくる彼女の視線を感じながら。
こうして、ヒャクは、集落に唯一つ残った家に住み始めた。そこに住みながら、僕に向けて祈りを捧げる。
僕は、兎や猪を捕らえて捌いて肉にし、食べられる木の実や野草と共に家の前に置いた。
居つくのなら、そんな簡単に死なれても嫌だったから。
まったく……本当に強情な奴だ……
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