これ以上僕を不快にさせるな!!
いちいち頭を下げることを『不愉快極まりない』と僕は言ったけど、ヒャクとしては、
『そんなことを言われてもどうしていいか分からない』
という状態だっただろうな。体を起こしかけたところで止まってしまって、動けなくなってしまっていた。僕の言う通りに頭を上げるべきか、それともさらに頭を地にこすり付けて自身の非礼を詫びるべきかで綱引きをしているんだろう。
だから僕は、敢えて、
「立て! ヒャク! これ以上僕を不快にさせるな!!」
叱責する。
「は、はいっ!」
弾かれるようにして彼女は立ち上がり、竹のように硬く真っ直ぐ体を強張らせた。
こうやって命じなければ自分の行動も決められないのか、人間は。
それでも、頭を下げるのをやめた彼女に、
「食え。腹が減っているんだろう?」
手にしていた<団子>を差し出した。
「あ……でも……」
この期に及んでまだ躊躇うヒャクに、
「僕が食えと言っている……」
冷たく言い放つ。
「はい……っ!」
慌てて団子を手に取り、彼女は自身の口にそれを押し込んだ。すると、ハッとした顔になり、もむもむと丁寧に味わった。数日振りの<まともな食い物>に酔いしれているんだろう。
まあ、<
それでも、今のヒャクにとっては何よりの御馳走だと思う。
しっかりと噛み締めて味わって、むぐりと飲み下し、
「美味しい……! こんな美味しい肉団子は初めてです……!」
本人としても思わず口に出てしまったんだろうな。輝くような笑顔で言った後、
「し、失礼しました!」
恐縮して俯いてしまう。
「いちいち頭を下げる必要はない。どうせ大したものじゃない」
僕はそう言って背を向けた。そして、
「さっきも言ったが、ここから逃げ帰るなり、どこかで身を投げて死ぬなり、勝手にしろ。僕はもうお前達人間とは関わり合いになりたくない」
吐き捨てる。
とにかく、
『僕の見ている前で死ぬのは許さない』
という意味だった。
なのにヒャクは、
「この度は、竜神様にお願いがあって参りました! 今、里では冬の間からまったく雪が降らず、雪解け水が流れてこず、春になっても雨が降らず、長雨時になっても雨が降らず、田や畑はひび割れ、何も育たない有様です。
麓の祠で何度も祈祷も行いましたが竜神様には届かず、ゆえに私がこうして生贄として参った次第です。
どうか…どうか、竜神様のお力にて雨を降らせてくださいませ……!」
またも平伏して地に頭をこすり付け、僕に懇願した。そうするしかなかったんだろうな。
でも僕は、振り返ることもなく、
「言ったはずだ。僕はもう人間とは関わらない。お前達がどうなろうと僕の知ったことじゃない」
言い捨てて、洞に戻ったのだった。
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