閉幕――、ハルカゼが夏に舞って、冬のアジサイが芽吹いた



 太陽はとうにその役目を終え、夜勤に勢を出す月が煌々と輝く。

 ボーッと、夜空を眺めている私のすぐ隣、大の字になって横たわっている変態……、じゃなかった、先輩がパチッと目を開けた。


「……今、何時だ」

「……八時、すぎかな、閉門時間、とっくに過ぎちゃいましたよ」

「……見廻りの先生は?」

「……来てないです。サボってるんじゃないですか」

「……そうか」


 リンリンと、夏の夜虫がでたらめなオーケストラを奏でており、滑稽な私たちを笑っているような気がした。だらしなく足をほっぽり、全体重で鉄網のフェンスをしなだれさせている私の耳に――


「――なぁ、春風」

 ボソッと、世間話をするようなトーンの声が流れる。


「……はい」

「お前が好きだ。僕と、付き合ってくれないか?」




「…………はい――」


 ちょっとだけ逡巡して――


 なんでもないようなその声に、

 なんでもないような声を返した。


「……ありがとう」

「……こちらこそ、よろしくお願いします」


 遠慮がちな声が夏の夜空に響いて、私の口元がフッと綻んだ。



「ちなみに、私と付き合うなら、一つ条件を出してもいいですか?」

「……なんだ?」

「デートする時、サングラスは禁止でお願いします」

「……えっ?」

「もし次のデートでサングラスしてきたら、かち割りますんで、覚悟してくださいね」

「……わかった、百円ショップで購入したものをかけていくことにしよう」

「……そういう問題じゃ、ありませんっ!」


 ムクっと起き上がった先輩がふいにこっちに目を向けて、夏の満月が彼の顔を淡く照らす。



「――先輩?」

「む、なんだ?」

「……今、私の顔じゃなくて、胸の方見てましたよね?」

「――ッ! ば、バカな……、そんなわけ、ないだろうっ」


 露骨に慌てた先輩は、頬を朱色に染めながらポリポリと頬を掻いていて――




「……スケベっ」


 クスッと笑った私が先輩の顔を覗き込むと、

 彼もまた観念したように、フッと口元を綻ばせていた。







-fin-



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【長編】 巨乳に恋は荷が重い ~胸がでかいせいで、何故か初恋の難易度が爆上がりした女子高生のラブコメ~ 音乃色助 @nakamuraya

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