2-19

 どうする……、取り敢えずは。


 比劇が向かいそうな所……違う、そうじゃなくて、後輩がいそうな場所だ。ヤンチャしてるってんなら、確証はないけど若者で溢れてるような所にいると思う。喧嘩の対象が若い世代ばかりだったから。加えてニュースの現場と照らし合わせれば、おおよその行動範囲はわかる。……俺だけで探すには骨が折れる広さではあるが。


 大学の知り合いに探索を手伝って貰う訳にはいかない。こんな事に巻き込みたくない。倣司さんには助言を貰うのも駄目だ。警察の耳に入ってしまうかも知れない。


 ……日法なら……いや、無理だ。あいつは他人に対して容赦ないから、何するかわからない。下手すれば比劇にも被害が及ぶ可能性だってある。

 ああくそっ。相手がシンカでも構わなくて、警察に関係がなくて、やり過ぎない人なんて……。


「…………」


 ……いるじゃないか。うってつけの人が。


 でも問題なのは、俺の頼みを聞いてくれる保証がない事。それ以前に連絡を取り合えるかどうか。一か八か……。

 番号を入力して通話。思い返してみれば、此方から呼び出すなんて初めてだった。内心ドキドキする。恐いという意味で。


『――――――何だ、自首か?』


 出た。出てくれた。コール音二回で出てしまった。ほっとしたようなぎょっとするような気持ち。


「すみません黒色さん。いきなりなんですが、お願いがあるんです」


『……なんだ』


 俺への決めつけからくる言葉はもうやめたようだ。仕事柄、雰囲気を読むのは長けてるらしく、俺の声色からちゃんと聞く姿勢を取ってくれた。こういう所はありがたい、しかし。


「友達が、シンカかも知れない奴と会いに行ってるんです。俺一人じゃ探しきれなくて……だから黒色さんにも手伝ってほしいんです」


『嫌だ』


 だからといって、懇願を承諾してくれる訳ではない。即答だ。迷い無く慈悲無く、実に黒色零子らしい。


「っ、お願いします……もしかしたら、殺される可能性だってあるんです、だから――!」


『嫌だ』


 きっぱり、彼女は言う。

 知ったことか、と。


「――あんた特務機構だろうが! 一般人を守るのが仕事なら動けよ! どうせ俺だからとかが理由なんだろ、でも今はそれどころじゃ――」


『理解できん。なぜ私が手伝わねばならん』


 本当に理解できない、そう匂わせる疑問の言葉だった。無機質な音質だからではなく、彼女の声色自体が無機質そのものに感じられる。俺が嫌いだからという理由だけで……いや。


 この人の性格上、シンカの殲滅が義務であるのに、わざわざ足を運んでまで他人を救う事に必要性を感じないんだ。仕事ならいざ知らず、ただのお願いなんか気にも止めない。


「…………お願いします」


『くどい』


「お願いします」


『黙れ』


「お願いし」


『喧しい』


 何も通じない。何も受け取ってくれない。何も、何も……。


「……わかりました。あんたに頼んだのが間違いでした。じゃあ切ります」


 やっぱり、彼女は彼女だ。初めて話した時からそんな人だとはわかっていた。機械的で無感情。他人に無関心、隣で苦しんでいようがどこ吹く風。唯我独尊のくそったれ。期待した俺が馬鹿だった……、のだが。


『ん、いいのか。場所は言わなくて』


「………………は?」


『だから、場所は言わなくてもいいのかと訊いたんだ』


 ……えっ、なに言ってんの、この人。意味わかんないんだけど。


「……あのぅ、黒色さん?」


『なんだ』


「黒色さんは、来てくれないんですよね?」


『嗚呼』


「では、なぜ場所を事を?」


『場所がわからなければ向かわせられんだろう』


「何を?」


『助けを』


 …………………………………………………………………………………………。


「――大好きだぜクロちゃあああん!!」


『……おい、今なんと言った』


「かなり大雑把な範囲ではあるんですけど、二人で回れば今日中には何とかなるかも知れないです。マジ感謝です!」


『待て、貴様なんと言った』


 範囲を伝えた俺は通話を切る。

 クロちゃんが恐いトーンで何か言っていた気がするが、取り敢えず場所は伝えたのだから大丈夫だろう。


 最高だぜクロちゃん。何だよぉー、自分は行かないけどちゃんと応援は寄越してくれんじゃないかよぉー。声がもうちょっと可愛かったら惚れてるよ全くもぉー。


 それはさておき、何とかなりそうだ。待ってろよ比劇。見つかるまでは無事でいろよ――!

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