緋色の英雄

学園に通い始め数日がたったある日の事だった。

いつものように授業を受け、最後の授業が終わった時の話である。


「バンディット、学園長がお呼びだ。帰り際で構わないから学園長室に寄って行ってくれ」

「……あんまいい話じゃなさそうだな」


「バンディット、貴様入学してまだ数日だというのに……しっかりと謝罪してくるのだぞ?」

「なんもやってねえよ決めつけんな!!」

「私達は教室で待ってますので早めに許してもらってくださいねナナシさん」

「だからなんもしてねえんだよ殺すぞお前!!」


「あー伝える事は伝えたからな。ではこれで今日の授業を終了とする。各自、気をつけて帰るようにな」


カインは面倒くさそうだと思ったのか挨拶を済ませてそそくさと教室から出て行った。

しかし、本当に何もした覚えはない。

授業はサボらず受けているし、板書も必要な事はしっかり控えている。

とすれば恐らく模擬戦の時の話だろう。


「……やっぱ黒魔法使うんじゃなかったか」

「ほら!だからあれほどダメだって言ったんです!私のいう事をちゃんと聞かないからバチが当たったんです!!神の思し召しです!!」


ここぞとばかりにメアリーが騒いでいる。

恋人という設定だというのにまるで保護者のような態度を取るこいつは何様なのだろう。


「まぁその話であろうな、あの件は貴様を誘った僕にも非はある。迷惑を掛けてしまったようだ、すまなかったなバンディット」

「いやお前のせいじゃねえよ、あのままお前とやらなくてもあの時はイライラしてたし結局は黒魔法を使ってたさ」

「まぁ殺されるわけではないでしょうし早く行ってきてください」


面倒だと思いながらも学園に通う以上、生徒として教師の言う事は聞かねばならない。

教師が思わず敬語を使ってしまうようなあのネザーですら教師の言う事はしっかり聞いているのだ。

貴族でもない俺が反発するわけにはいかない。



ーーーー学園長室


他の部屋より一回り大きな部屋で大きなドア。

一眼見ればここが学園長室だとわかるように作られているのだろう。


早く終わらせようとドアを開け、学園長室に入る。

中には学園長の他に2人の派手な赤いマントをつけた知らない男がいる。


「君がナナシ・バンディットで間違いないね?私はディーン・ナイトハルト、こっちの白髪はヘリオ・ルータス。私達はこのアルメリア王国で騎士を務めている。よろしく頼むよ」

「私もはじめましてですね。ナナシくん、この学園の学園のセレス・トートです。よろしくお願いしますね」

「……はぁ、それでその王国の騎士様と学園長様が俺に何の用でしょう」


俺の態度が気に入らなかったのか赤い髪をしているディーンに紹介された白髪のヘリオとかいうのがこっちを睨んでいる。


「いや、用というほどの事ではないんだよ。君の黒魔法がとても優秀だから騎士にどうかと学園から紹介されてね。それで私達が直接見にきたわけだ」

「へえ、有難い話ではあるんだろうけど生憎騎士様に興味がないもんでね、悪いがこの話はここで終わりだ。まだ何か?」

「……貴様!!先程から黙って聞いていれば何様のつもりだナナシ・バンディット!!!国を守っている我々に対してその態度!!子供だからといって許すほど我々は優しくはないぞ!!!」


部屋中がビリビリと揺れるような強烈な怒声だが、生憎ただの言葉だけで怯えるような肝は持ち合わせていない。


「事前に一言もなく学園に急に来て、急に呼び出して騎士にどうだって?お前達こそ何様だ。このアルメリアの学園長や騎士は金や権威と引き換えに礼節でも捨ててんのか?」

「いい加減にしろよ小僧!!!我々とて暇ではないのだ!!!無い時間を縫ってわざわざ来たのだぞ!!!」

「だから頼んでねえんだよ白髪。暇じゃねえんだろ?さっさと帰ってやるべき事をやったらいいさ」

「ふざけた事をぬかすな小僧!!それだけ人を舐めた口を聞く前に自分の立場を弁えろ!!!」


ぎゃあぎゃあと喚き散らすヘリオを挑発する様に言葉を返していく。

出来るならこの挑発に乗って表に出ろ!!その舐めた態度を叩き直してやる!!とか言って戦闘になってくれると有難い。


もう学園で黒魔法を使ってしまった以上隠す必要もない。

むしろ全力とはいかないまでもある程度までは力を見せておきたいところだ。


しかしディーンがそれを止めに入る。


「ヘリオ、礼節に欠ける方法で会いに来たのはこちらの方に非がある。ナナシ君の言う事は間違ってはいない。冷静になれ」

「しかしディーン!王国の騎士である我々に対するこの小僧の態度は到底許せるものではない!!!

「なんだ白髪?敬語でも使って欲しいのか?今のお前の態度と礼儀を見て俺はお前のどこに敬う点を見出したらいいんだ?」


ヘリオはナナシの言葉に激昂し腰にかけた剣に手をかけた。

その瞬間。


「ヘリオ!!!!!!!」



先程のヘリオの怒号とは比べ物にならないほどの怒号が部屋に響く。

ディーンは髪と変わらないほどのはっきりとした赤い目でヘリオを睨む。


「いい加減にしろヘリオ、こちらに非があると言ったはずだ。君はその腰につけた剣を民を殺すためにつけているのか?君のその態度にこのアルメリアを守る騎士としての誇りがあるのか?答えろヘリオ」

「……い…いや……すまなかった……ディーン」

「今君が謝らなければならないのは私か?それすら私が教授せねばわからないなら今すぐアルメリアの騎士としての誇りであるそのマントを脱いで剣を抜け。今すぐに私が君を殺してやる」

「……す、すまなかった少年。礼節を欠いてしまったのは此方の責だ……どうか許して欲しい」


どう見てもヘリオの顔は納得しているようには見えないがこうなってしまった以上長引かせるのも面倒なので俺は手を振って気にするなというジェスチャーをする。

声に出して返事をしないのも勿論挑発ではある。



「……すまなかったねナナシ君、しかし私個人としても黒魔法使いなもので君の黒魔法には興味があるのだよ。どうかなナナシ君?悪い話ではないと思うのだけど」

「これが悪い話ではないというのは何か根拠でもあるんだろうな?」


「おや?君と同じ灰適正でありながら緋剣と謳われた御伽話の英雄の剣をその目で見ておいて損はないと思うけれど」

「……へぇ、アンタも灰適正か。鼻っからそっちの白髪じゃなくアンタを挑発すべきだったかな」

「いや、ヘリオを煽ったのは正解だったと思うよ。私は君に煽られてもなんとも思いはしないからね,



でも聞き逃せない事も当然ある。

私達は金や権威に釣られて騎士でいるわけではない。

取り消してもらうよ、ナナシ君」


先程までとは打って変わって赤髪が燃えるように逆立つ。

ディーンは赤い目でこちらを睨んでいる。


思っていた様にはいかなかったがどうやら挑発は上手くいっていたようだ。


しかし目の前で黒魔法を纏い睨むディーンを見て改めて思う。

赤く猛々しく沸騰しているような強烈な魔力。

失敗に終わったがやはりヘリオを挑発しようとした俺は正解だった。


「取り消させてみろよ赤頭、頭と目だけじゃなくて面まで赤くしてやるからよ」

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