第7話 case2 悪役令嬢追放作戦(2)

【追放】 つい‐ほう〔‐ハウ〕


1 不要または有害なものとして、その社会から追い払うこと。

2 危険人物または不法入国者を国外に退去させること。

3 公職・教職などからしりぞけ、それらへの就職を禁止すること。パージ。

4 中世・近世、罰として特定の地域から追い払い、立ち入りを禁じたこと



つまり、良い意味で使われる事ではない。


「何を言ってんですか! 冗談にもほどがあるでしょ!」


基本的に脳筋なだけで良いスライムだと思ってたのにこんな事を言い出すとは。


「ま、待ってください、つまりこれ以上母や妹が変わってしまう前に私と離してしまおうって事なんですよね?」

「ユーリアさん…」


俺が抗議の声を上げるも当事者から引き止められてしまった。

確かに現象の説明を聞いた限りじゃ、それが解決法だと思われるけど、あまりにもあんまりじゃないか。

14歳の少女に家族から離れて暮らす事を強要するなんて事は。

俺が歯痒い思いを抱いている中、スレア大尉は「青春ねぇ」等と抜かした後に


「あらあらぁ、二人とも話は最後まで聞くものよぉ? 確かに彼女には一度家を出て貰うけど…」


スレア大尉が話し出した作戦概要は本当に?という内容だった。



…………………………


「と、いう訳でやってきた訳ですけど」


あれから3日が経過し、スレア大尉の説明したの準備が大体出来たので

俺、メイ少尉、ピース伍長の3人はユーリア嬢の実家がある帝都からは離れた港町までやって来たのである。


「こういう港町の風情ってのも、中々味わい深いな」


港には帆船が並び、積荷を運ぶ人や出航の準備で駆け回る船員の姿、海産物や他大陸の物産の露店等が立ち並び、町は活気に溢れている。


「今回の任務は1週間を目安にしてますから、休憩時間は回ってみると良いですよ」


ピース伍長は朗らかな口調で俺の方を向いて笑う。


「…1週間かぁ、結構かけるんだなぁ」

「まぁ、念には念をって感じなんだと思いますよ。どちらにせよ、今回の任務の要はタイガさんなので頑張って下さい」

「後方支援はしてやるヨ」


ケケケケと笑うチビ改め妖怪メガネワラシは放っておくとして、そうなのである、

今回の任務は俺達3人だけで行う事になったのである、非常に不安。

少佐達3人は別件があるとの事でこちらには同行していない。

俺、初任務なんだけど、それでいいのか?


悩んでも仕方がないので気を取り直して現場へと向かう。

住宅街の中でも一際大きな屋敷が目に入る。


「でっか…ここで合ってんスよね?」


まさに大豪邸というべき建物に、思わず及び腰になる俺。

こんなんテレビで見た芸能人の億越えの屋敷とかでしか見た事ないので俺は悪くない。不審者丸出しの俺は流されてピース伍長が住所と地図を確認して頷く。


「間違いないですね、ここです」

「やばい、意味なく緊張してきた…!」


ピンポンダッシュとかしたくなってくる。


「ベルダッシュでもするカ?」


お前もかい!?

クソ、メガネワラシと同じ感性だったのが恥ずかしくなる。


「止めてくださいよ…どっちにせよ、裏口から伺うんですし」


妙なテンションになっている俺達に苦笑いしつつ、伍長が先導して裏口へと向かう。

俺達が裏口に回ると丁度そこにユーリア嬢と厳しい顔の壮年の男性が待っていた。


「お待ちしておりました、皆様が外世界住人事案対策課の方々ですね?

私はバーガンティ家当主のニコラス=バーガンティと申します」


男性はキビキビとした姿勢でこちらに頭を下げる。

俺は事前に教わっていた通りに軍隊敬礼で返す。

二人も慣れた様子で敬礼で返している。


「お…私はタイガ=タナカ二等兵であります!」

「ピース=ステイサム伍長です」

「メイ=ベイベイ少尉でありますヨ」


挨拶を終えた俺達をニコラスさんは少し怪訝そうな様子で眺める。


「その、こんな事を聞くのは失礼だが、皆さんは随分とお若いようだが…?」


いや、まぁ、分かりますよ、その気持ち。

軍人とはいえ明らかに未成年3人衆(少尉の年齢知らんけど)が現れたら不安にもなるよね。


「大丈夫大丈夫、事前に渡してたのも私作ったものヨ。

 こう見えて腕には自信あるヨ」


一番のチビが率先して大丈夫っていうのもどうかと思うけど、チビの返事を聞いたニコラスさんは驚いた様子で「アレを貴女が!?」とか返してる。


「な、成程…見た目にそぐわぬ能力を持つ集団とは聞いてはいたが…」


いえ、そこの眼鏡チビだけです。俺らは見た目相応です、多分。


「とりあえず中にお入りください、例の物も家内達は入らぬ部屋に準備させております」


そう言って中へと案内してくれるニコラスさんと、こちらへ軽く会釈して中へと入るユーリア嬢に従って俺達も屋敷の中へと入る。


「例の物はこちらに設置させてもらいました」


書斎だと思われる場所に通されるが、その中には本ではなく複数個のモニターと通信用設備のようなものが設置されている。


「おー、ちゃんと指示通りに設置してくれてたみたいヨ。これなら早速にでも…」


少尉はモニターの前に座ると機械を次々と操作していく、小気味よくタイピングする音が部屋の中に響き、


「最後にこれで魔力を通せば…完成ヨ!」


ターンッ!と勢いよくボタンを弾く音が響き、同時にモニターに映像が映る。

その光景にニコラスさんと、前世帰りとはいえこの世界の生まれのユーリアさんは息を呑んでいるようだ。

そりゃそうだ、だってこれ監視モニターだもの。


「屋敷内に設置してもらった監視水晶とこっちのモニター…まぁ、動く絵画みたいなものと思えばいいヨ、が繋がっていてこの部屋から動かずに様子を窺えるヨ」


この3日間で行ってもらっていた事前準備の一つが、この監視体制の設置である。

そしてもう一つが…


「それで、これが例の家宝の壺…のヨ」


バーガンティ家に伝わる骨董品の壺…の複製の作成である。

少尉が念入りに模造した物で本物とも寸分の差もないが見分ける為にこっそり壺の底に傷はつけてある。


「さて、本番は明日から始めるヨ。ニコラスさんも心を鬼にして臨んでほしいヨ」

「分かりました、ユーリアも本当にいいのだな?」

「えぇ、私も覚悟は決まっておりますお父様」


少尉の言葉に親子は頷きあい、俺は複雑な気持ちになる。


だって、この後この娘に着せる訳だしなぁ…


俺がこの後の展開を想像して煩悶としていると


「お、この子が例の妹カ?」


少尉がモニターに映った少女に反応する。

確か名前はシャルロッテ=バーガンティ、金髪の活発そうな8歳の幼女だ。

彼女はコソコソとした様子でユーリアさんの部屋に入って彼女のぬいぐるみを物色している。


「あぁ、あの子はまたこっそりと持っていこうとしてるのですね…」


その様子にユーリアさんは困ったような、しかし、思い当たる所はある様子で複雑な表情を浮かべている。


「こうやって、最近私の私物を勝手に持ち出すようになったのです。この程度ならまだ可愛げもあるので問題ないのですが…」


そうして様子を眺めていると、熊の人形を手に取った彼女は取り出した鋏で人形をバラバラに引き裂いていき、満足そうに元の場所に戻して部屋を出ていく。


「あぁ…また…」


その様子にユーリアさんは悲愴な表情を浮かべている。

これは…思ったほか心に来るな…


「すまん…すまんな…ユーリア」


ニコラスさんも沈痛な面持ちでユーリアさんの肩を抱きしめている。

流石にこんな光景を見せられていると俺の心情云々はもう後回しだ。


ピース伍長も気を引き締めた俺を見て頷いている。

少尉は…


「アッ、風呂場とトイレに置いてないじゃないカ! チッ、楽しみが減ったヨ」


モニターの様子を確認して最低な言葉を吐いていた。

よし、こいつはいつか必ず〆よう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガイジュウ 〜帝都外世界住人事案対策課〜 @akinu2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ