第3話 case1 異世界転生系(3)

俺とチャロは隠れつつ、洞窟の入口の様子を窺う。

そこではアルガス族の皆と軍人と思われる連中が対峙していた。

アルガス族の皆は槍や弓といった武器を構えて入り口側を陣取り、

帝国の連中を威嚇している。

それに対して帝国側は入り口の外から遠巻きに固めつつ、

周辺の逃げ道を完全に塞ぐ形で陣形を整えている。

流石に相手もプロだから、誰にも見つからずに逃げ出せる隙何て見当たらない。


ただし、それは相手が人間だったらの話だけれどな。


この絶望的な状況ではあるが、俺とチャロだけならば逃げ出せるチャンスはある。

しかし、本当にそれでいいのだろうか? 俺は自分の横にいるチャロを見つめる。


「いいの、みんな覚悟は出来てるから」


決め切れずにいた俺の背を押すようにチャロが俺の目を真剣な表情で見つめ返してそう返す。まだ1日も経ってない付き合いだけど良い人達だったので胸が痛む。

それでも、あの人達の覚悟を無駄にする事は出来ない!

全身に気合を入れて、俺は叫ぶ。


「『加速アクセラレイト』!!」


そして、時はほぼ停滞する。

俺は隣で固まるチャロをお姫様抱っこの形で抱え上げ、入り口に向かって走る。

おっさんや他の皆の無事を願いつつ、俺は外に出る。

軍人の集団もこの能力の前ではほぼ無力だ、こうやって外に出ている俺にも気付く事は出来ないだろう。彼らにしてみれば数秒の出来事だからな。

さて、極力チャロを抱えたままでも通りやすい場所を探して周囲を窺う。


「あの辺なら、他よりは通りやすいかな?」


比較的、隊列の薄い場所を見つけて俺はそこの隙間を縫っていく。

こんな人数相手でも殆ど余裕な自分の能力に我ながら、とんでもチートだなと考えながら包囲を抜けきったと思った時、



「あの~、逃げるのはよくないと思いますよ?」

「えっ?」


少女?いや、胸の形と声からして少年?と思われる軍服を着た小さな奴が俺の服の裾を引いている。


というか、何で


俺の動揺から集中が切れてしまい、思ったより早く能力の解除の感覚が迫ってくる。


「やばっ!?」


俺が声を上げた時には既に時間は普通に流れ始めている。


「あらぁ?」

「ムッ?」

「おんや?」


包囲には加わらず、他の軍人とは離れた位置にいた3人の軍人がこちらに気づく。

俺の腕に抱えられていたチャロが変化に気づくと、

慌ててはいるがすぐに状況を理解して、まずは俺の裾を引っ張っていた少年を俺から離す為に蹴り飛ばそうと少年に向かって足を勢いよく伸ばした。


「離せ、!」


だが、その足の動きがピタリと止まる。

その足首には青い粘性の物体がいつの間にか絡みついていた。

それは3人の内の一人から伸びており、その腕に繋がっていて、

これって…スライム?


「駄目よぉ、女の子がそんな乱暴な事をしちゃ」


その声を発した女の身体が崩れたかと思うと、不定形な形状のまま足元へと迫ってきて、目の前で再び軍服を着た女の形になる。


「ハイ、確保」


状況についていけずに固まっていた俺の腕からするりとチャロが奪い取られる。


「ムー! ムー!」


チャロの身体は粘性の触手で逆さまに簀巻きにされており、その口には猿轡の様にスライムが潜り込んでいる。

青い肌、よく見れば泡立つ半透明な身体を持った女?がチャロをそのまま自分の傍に宙づりのまま引き寄せていく。


「チャロ! ちょ、いい加減離せって!」


俺は服の裾を掴む少年を引き剥がそうと腕を振り回したりと試みているのだが、どういう訳だか全くと言っていいほど引き剥がせない。


「あーばーれーなーいーでーくーだーさーいー」


少年は振り回されまいと足を踏んばって耐えている。

力が強い訳でもないのにどうしてだか


「見てないで手伝ってくださいよぉ!」


少年が動かない二人に必死の様子で呼びかけるが、


「えぇ、俺もう仕事したし…」

「めんどくさいヨ」


筋肉質な男は嫌そうな顔を浮かべて耳をほじり、眼鏡をかけて軍服の裾を余らせた所謂萌え袖?状態にしている少女はこちらを見ようともしない。


「少なくとも少尉は仕事してくださいよ! 査定に響きますよ!」

「チッ!」


少尉と呼ばれた眼鏡少女がこちらに顔を向ける。


「お前の所為で、働きたくもないのに働かされたヨ」


え、それ俺悪いの?

理不尽な怒りを向けられた俺に対して、少女はその垂れた袖の腕をこちらに向ける。

その垂れた袖から何かが煌めくと、俺の胸にピタッと何かが張り付く感触。

視線を下に向けると俺の胸には黒い四角い物体が張り付いていて、その先端にはコイルのようなものが取り付けられている。

アレ、こういうのなんか見た事あるぞ?

それに気づいた少年が俺から慌てて手を放す。

アッ、ハイ。分かったぞ、コレ。


「スイッチオン」


理解した俺に対して告げられる無情な宣告。

というか、これ完全に現代兵器の一つだよね?

見た事あるもん、だよね、これ?


「ギャァアアアアアアアァッス!」


全身を凄まじい衝撃が襲い、俺の意識はぷっつりと途切れた。

残念、私の冒険は終わってしまった!


……………………………


「んぁ…?」


嘘です、終わってませんでした。


どうやら何処かのベッドに寝かされていたようで、白い天井が目に入る。

近くでタオルなんかを運んでいた少年がこちらに気づき、駆け寄ってくる。


「あ、良かった目が覚めましたか? 少尉が無茶するから目が覚めないかもって」


目覚めにシンプルに怖い事を言わないでほしい。

あどけない顔をしているけど、割と遠慮のない性格なのかもしれない。


「ここは…?」

「ちょっと待っててくださいね、今から人を呼んできますので」

「いや、ちょっと?」


呼び止める間もなく、少年は部屋から出て行ってしまう。

感電させられた所為か、頭痛が酷くてまともに動く気にもなれないので、そのままベッドに横になる事にする。


「ハァ…どうなっちゃうんだろうなぁ、俺」


転生直後の人生でこれである、2日目にして最早お先真っ暗なのはどうなんだろう?


暫くして、さっきの少年が誰かを連れて戻ってくる。

男のようだが、身長180cm位の痩せた体格、白髪をオールバックで固めており、

その顔は両眼の下の深い隈と眉間に刻まれた皺の所為で病的な印象を受けるが、

眼光だけは鋭くこちらを射抜いてくる。

着ている軍服と併せて、こちらに与える威圧感がとんでもなく、迂闊な事は言えそうにもない雰囲気を漂わせている。

男はベッド上の俺に視線を向けると、徐ろに口を開いた。


「君はこの世界の外から来た人間で間違いないか?」


低く、それでいてハッキリとした声量で俺に質問してくる。


「そうだって答えたら、俺をどうかするつもりなのかよ?」

「君の対応次第だ」

「あんたら帝国の奴らにむざむざ協力する気はないぞ、チャロ達に酷い事しやがった癖に!」


完全にただの強がりだけど、こっちにだって男の意地ってもんがあるので一応は突っぱねてみる。


「酷い事?」


俺の返事に男は怪訝そうな顔を浮かべる。まるで身に覚えがないかのような顔。

成程、あんたらには取るに足りない事だってか!


「あぁ、そうだよ! アルガス族のみんなを迫害してんだろ、クソ帝国は!」


話を思い出して、また怒りが込み上げてきたので全力で牙を剥いてやる。

こうなりゃ自棄である、この後の事は未来の俺が何とかしてくれる!


多分!


それに対して男は、


「…まだ説明してなかったのか?」

「あ、メイ少尉が薬物抜け切るまで時間かかるって言うもので…」


眉間を押さえて呆れた様子で隣に控えていた少年に尋ね、少年も困り顔で返答した。


へ? 説明? 薬物? どゆこと?





「本っっっ当に申し訳御座いませんでした」


そして俺は人生の中でこれ以上ないくらいの完璧な土下座を決める。


この状況に至った経緯を説明する為にほんの少しだけ時間を遡せてほしい。


病室に来た二人、長身の白髪の男性がカンナギ少佐、童顔の少年はピース伍長と名乗り、二人は確かに帝国の軍人ではあるのだが、

彼らの目的はアルガス族の殲滅や俺の捕獲ではなく、

動いていたらしい。


俺が転生してきた直後に会った、あの二人の軍人は俺がやった事から特別な能力を有していると判断し、俺による拘束を脱出した後にカンナギ少佐の部隊に連絡。

報告を受けた少佐達は現場に急行し、俺の進行方向を確認。

偵察に出た人から俺がアルガス族の隠れ家に一緒に居る事を把握。

その後、現地の他の部隊を招集してアルガス族の隠れ家を包囲したらしい。


さて、なぜ彼らがここまで早急な部隊展開をしたかというと、俺には未だに信じられない所もあるが、アルガス族の皆はだった為だ。


まぁ、簡単に言えば部族全体が押し込み強盗のようなヤバい連中だったらしい。


最初は俺も彼らの主張を鼻で笑ったが、ならば自分で確かめてみろと案内された先では、丁度ガラス越しにチャロが取り調べを受けている所だった。

何でも、俺の目覚めに合わせて取り調べを開始したらしい、マジックミラーになっていて向こうからはこちらは見えないので、そのまま見ているように言われる。


「それでぇ、もう一度確認するけどぉ貴女はあの人間族の子が転生者…貴女達の部族だと勇者だっけぇ? それを分かってて彼をアジトに連れ込んだのよねぇ?」


間延びした甘ったるい口調で話す女性…女性なのかアレ? 肌は青くて半透明でよく見るとプルプルと揺れている、女性というよりは女性の形をしたスライム?

ピース伍長によるとスレア大尉というらしいが、その彼女がチャロに俺の事を尋ねている。


「…ハァ、さっきも答えたじゃない。 その通りよ!」

「どうしてそんな事したのぉ?」

「だから言ってるでしょ、あの能力が欲しかったから!」


チャロが牙を剥き出してスレア大尉に飛び掛からんばかりの勢いで吠えている。

俺の中での美少女像が崩れて、こんにちわ今日の悪女像がクラフトされていく。


「おいおい、意図的な転生者の隠蔽は帝国法違反なのは知ってるだろうが」


取調室の入り口に陣取っていた筋肉質で逆立った銀髪の茶褐色の肌の男性が呆れている。ちなみにこの男性はガロウ中尉というらしい、ムキムキマンには興味がないので詳しくは聞かない。


「フン、そんなの帝国の中での決まりでしょ、わたし達には関係がないわ」

「おーおー、好きかって言いなさるじゃねーの…でもよ」


ムキムキマンはスレア大尉が調書を取っている机の前まで歩いていくと、右手を勢いよく机に叩き付ける。 刑事ドラマとかでよく見る奴だな、コレ。


「ガキ一人手籠めにするのに、麻薬使うのはいただけねぇなぁ!」

「くっ…」


筋肉マン…おっと、筋肉男がチャロ相手に凄む。


「ちょっとぉ、インクが零れちゃうじゃない」


直後にスレア大尉の触手に顔面を鷲掴みにされて壁に叩き付けられていた。

哀れ、何なんだあの肉…というか大尉こわっ!


「でも、ガロウ君の言う通り、薬はいただけないわねぇ」


目の前の凄惨な光景(自爆)を見せつけられて、チャロも最初ほどの勢いを失くして俯き、目を逡巡させている。というか、あれは普通に怖いので仕方ない。


「それに確保されてた時に貴女がつけてた香水、催眠と催淫効果のあるやつだったわよねぇ?」

「うっ…は、はい…」


大尉がチャロの顎に手を添えて自分の方に向かせて、真正面から見据えている。


「麻薬で判断を麻痺させて、後は肉体関係結んで自分のモノにしようとしたってとこかしらぁ? 明らかにその手の誘惑に弱そうだったしねぇ」

「……」


チャロはその質問に答えられずに目を逸らしている。


Oh…マイサンのピンチは俺の人生のピンチでもあった訳だったんだ…

でも、接吻くらいだったら淡い思い出として記念に貰っておきたかったんだけど。


「ちなみに彼女の言っている麻薬の成分はここにはいないメイ少尉という方が調査して、無毒化してありますので安心してください」


ピース伍長が俺に優しい眼差しで補足説明をしてくれる。

止めて、そんな綺麗な瞳で見ないで、薄汚れちまってる俺を!

あ、でもあの眼鏡ロリはメイっていうのね、後で絶対泣かす。


だが、それよりも今俺がするべき事はただ一つ…


そして、俺は何処か生暖かい視線を向けているカンナギ少佐とピース伍長に向き直り。


土下座した。



…………………………


「さて、改めて自己紹介とさせて貰おうか。私はこの帝都外世界住人事案対策課室長カンナギ=サンジワン。階級は少佐だ」


会議室に案内された俺はソファーに座りながら目の前の白髪の男性の顔をぼけっと見ている。少佐は俺にこの世界の実態を説明してくれた。


曰く、この世界ではある日から唐突に自身を異世界からの転生者だと名乗る者、前世の記憶を保有していると訴える者、優れた知性を有する新種の生命、何らかの切欠から端を発する特殊な状況の変化などの所謂が発生するようになった。

それら、『世界の理の外』に属する者達が持つ影響力は様々で過去には何か国もが滅亡するほどの災害へと至った事もあるという。

その為、帝国を含む各国はこの災害への対応(そう、この世界では転生者なんかは一律して扱いなのである)への対処法として同じ様に『世界の理の外』に属する住人を採用した。

このオスグロス帝国でも同じ様に既に発生していた外なる者を招集、そうして出来上がったのが帝都外世界住人事案対策課。通称『』。

彼らの任務は新たに発生した『世界の理の外』から来たものを発見し、確保、保護、もしくは終息させる事である。 財団じゃないよ。

そうやって保護した人には能力を使って帝国に貢献するか、もしくは能力を使わずに慎ましく過ごして貰うか選択して貰うらしい。

最悪、問答無用で収監する場合もあるとの事。

俺の場合はツーアウトワンストライクくらいでギリギリセーフだったので土下座で許してもらった。

なので、俺は今、今後についての答えを検討中である。


「あたしわぁ、スレア=美海みなみ大尉よぉ。見ての通りのスライムさんよぉ」


青くて半透明な肌をプルプルさせながら甘ったるい声を出しているスライム。

顔は好みのタイプなのだけど、何せスライムである。作り物なのだ。

なのでどうにも反応に困る相手である。

そう言えば、スレアさんの自己紹介でも分かる事なのだが、この世界、普通に日本語通じる。そういう姓名の人もいる。

女神さまがなんかしたとかじゃなく、普通に公用語。

あと英語も通じるらしい、それとは別に本来の土地由来の言葉とかもあるらしいけど、基本は普通に日本語で行ける。

何でなのか聞いたら、そういう言語に関する能力者が過去に居たらしくて言語がしっちゃかめっちゃかになった結果、気づいたらこうなってたと。

うーわ、影響でけぇ! そりゃ対策もするわ!

話が反れたので戻すとこのスレアさん、能力名はそのまんま『スライム転生』。

転生した際に新種のスライムとして生まれ変わったらしい。

捕食して相手の能力獲得!とかは出来ないらしいが、軟体故の元々の基本スペックが高く、何故か本人の武術知識も造詣が深いので滅法強い。そんで物理は無効。

ガチだと軍でも最強らしい、なお、本人にそれを言うと〆られるので禁句。

だけど、スライムらしく相応に弱点もあり、特に冷気が苦手で摂氏以下だと凍って行動不能になるらしく冬場では一転して最弱とか。


「よし、俺様はガロウ=フェンリル中尉だ! よろしくな坊主!」


ムキムキマンです、次いこ次。


「おいっ、何で目を逸らしてんだお前! なんか失礼なこと考えてないか!?」


うるせぇなこいつ、人のモノローグを勝手に読むなよ。

この褐色肌銀髪逆毛頭の筋肉が脳まで達してそうなのの能力は『人化』。

そう、こいつの正体は人ではなく『フェンリル狼』というデカい犬らしい。

しかもこいつ何がムカつくかっていうと『聖女』と呼ばれる人の従者として召喚されて、そのまんま美味しく頂きやがったとの事。上手くやりやがって…妬ましい…

『聖女』さんも本来はこの部隊のメンバーらしいのだが、現在は産休中。

ポジション代わってくんねぇかなこいつ…能力は狼らしく俊敏性とか嗅覚とか路上のマーキングとか。あ、犬がウ〇コする時にクルクル回るの地軸感じてる説あるらしいね!関係ないけどね!


こんなもんでいいだろこいつは、ハイ、次。


「メイ=ベイベイ少尉。趣味は実験ヨ。おしまい」


こいつは危険物を平気で無抵抗の人間にぶち込むマッドさんの眼鏡チビ。

低身長でお団子頭のサイズの合わないだぼだぼ軍服を着たビン底眼鏡が似合う女。

俺の今のとこ将来絶対泣かす女暫定1位、2位はチャロ。

能力は『過剰発明品オーバースペック』、この世界の技術を逸脱した物品の開発、生産、使用が出来る今のとこ唯一の人物。

ちなみに軍でも通信網とかで一部流用してるらしいが、外部への流出はNG 。

もし本人が勝手に国から出ようとしたら即国際指名手配にされるレベルの警戒人物。

まぁ、技術とかはマジで危ないので仕方がないともいえる。

本人は「資金援助さえあれば何でもいいヨ」との事、典型的マッドさんめ。

電気ショックの恨みはいつか晴らす。

あ、こっち見て鼻で笑いやがったな、ムキ―!


「あ、あの…何で急に地団駄踏みだしたんですか…えぇ…こわっ」


おっと、無関係なピース君をビビらせてしまった、冷静にならねば。


「えっ、今度は急に冷静になった…何なのこの人…まだ薬残ってるのかな…

え、えっと僕はピース=ステイサム伍長です」


さり気なく失礼な事言うよね、この子。

女子と見間違うような体格と顔をしているけど、声は割としっかりハスキーなのでなんとか男なんだと分かるのが特徴。 あと苗字が強そう。

彼の能力は非常に特殊である、名称は『無能ジョーカー』。

いや、別に彼を虐めようとしてるわけじゃないです、そういう能力なんです。

彼の能力の発動条件は事。

彼の能力発動下では対象は事が確立されてしまう。元々の個人の身体能力の優劣とか一切無視、ガチチート。

そりゃ、俺の能力では勝てる訳ありませんって!

ただ、能力の対象は1名だけ、発動範囲も本人の視界内、しかも能力なしだとただのひ弱な男の娘と超ピーキーな能力である。

俺も能力発動したままの移動中で偶然視界に入らなければ捕まらなかった訳です、運がなかった。


「さて、全員の自己紹介も終わった所で返答を聞こうか」


最後にこのカンナギ=サンジワン少佐。

実は彼は、彼だけは能力者ではない純粋なこの世界の生まれらしい。

軍部の意向でトップは世界の者から充てるとかじゃなく、

この部隊のトップに収まっているとの事。

詳しく聞きたかったけれど、皆口を揃えて実際に見た方が面白いと教えてくれなかった、なんじゃそりゃ。


しかし、困ったな。本音を言うと…

社会貢献の為とかメンドクセ――!! かといってこの能力も捨てたくね―――!

何とかこの場を誤魔化して有耶無耶にしてしまいたいのが本音である。


「いやぁ、すぐに決めるとか中々難しくて…もうちょっと考えさせてくれませんか? 1か月くらい」


俺の返事に少佐は机の上の書類を捲って目を通してから、


「そうか、それは困ったな」

「はい?」

「その場合、君にはまず公務執行妨害の罪を償って貰わなければならないんだが…」

「………」


コウムシッコウボウガイ?

俺は記憶を巡らし、記憶の中の夜空にあの時のおっさん二人の顔が浮かぶ。


「あ゛っ!?」

「君がそう言うのなら仕方がないな…」


少佐がハンコを持って書類に印を突こうとする。


「ここで働かせてつかぁさぁぁぁい!」


俺は本日二度目の華麗なる土下座をかました。


なお、後日ピース伍長から転生者は状況を理解するまでは軽度の犯罪行為なら情状酌量として放免される事を聞かされ、嵌められた事に気づくのだった。


そしてもう一つ、この部隊が事案の対処の為に大陸の隅から隅まで移動して、様々な状況への対応をしなければいけない事から他の軍の所属部隊から尊敬と憐みを込めて「ブラック部隊」と呼ばれている事を知るのも後の話である。


あぁ、覆水盆に返らず…後の祭り…


こうして、田中渡改めタイガ=タナカのこの世界での役割が決まった瞬間であった。

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