第13話 全裸の姉が襲ってきた

 二階の自室へ逃げ込んですでに三十分。未だ悶々とした気分と下半身の疼きは晴れない。

 皿洗いに戻ろうにも、姫夏に待ち伏せされているとすれば今度は何をされるか。いや、さすがに待ち伏せするほどあいつも物好きではないと思いたいが、しかしここまで来るともう何が何やら。


「さっきオマエが言ったこと、絶対許さないかんなァ」


 去り際の姫夏の言葉を思い出す。顔こそ笑っていたがかなり怒っているらしい。だがいつものあいつの怒り方からはかけ離れている。基本的に直情径行というか、怒るとその場で怒声やパンチが飛んでくることがほとんどなので、ああして俺を追い詰めることが今回の手段とすればずいぶん回りくどい。


 というか、こうして俺を追い込んだとしてあいつの目的はなんだ? 俺にどうしてほしい?


 俺としてはこれ以上姫夏に迫ってこられるといよいよ自分の中のケモノを抑えられる気がしない。理性のタガが外れれば最後、動物としての本能に基づくことまっしぐら。

 正直言って限界だった。


「やむを得ない……こうなったら一度スッキリしとくしか……」


 これならオカズがなくとも少しいじるだけで何とかなりそうだ。

 ここまで溜めたのにもったいない気がしてならないが、姫夏がまだ仕掛けてくる恐れがある以上もったいぶっていられない。一発済ませればこの疼きもピンク色の思考もたちどころに収まってくれるだろう。別に自分が性欲過多とか絶倫だなんて覚えはないし。


 そうと決まればさっそくティッシュを数枚重ねて掴み取る。


「けどそのままするのも……やっぱり……」


 単なる物理的刺激じゃなく、相応の妄想とかそれを助長してくれる視覚的刺激に頼りたいところ。

 ベッドの下に隠してあった本命のDVDを取り出す。テレビは使えずともこのパッケージだけで今なら十分イける威力があった。これしかない。


「遊びに来てやったぜェーーーッ!」


 さていよいよズボンを下ろそうとベルトを外したところで、不意にドアを蹴破る爆音。あと一秒遅ければパンツまで脱いでいたところだ。

 もちろんというか押し入ってきたのは姫夏だった。


「おぅわぁああぁああノックぐらいしろーーーッ!」


 だが抗議の声はそれきり出せなかった。振り向いた俺はドアの前で佇む姫夏の姿に固まり動けなくなる。


 なぜなら彼女が着ていたのはマゼンタのマイクロビキニ一丁。


 あのDVDのパッケージのそれとほぼ同じ姿で、すでに勝利を確信しこれから掃討戦に向かうような笑みを俺に向けている。

 乳首といい下の方のドコソコといい、ほんとにやっと隠れてるといった具合。ちょっと動いただけでずれてしまうのではないかという絶妙なバランス。


「あはっ♪ コーフンしすぎて言葉も出ない? そーともこのDVDで着てたヒメカの『とっておき』だぜェ?」


 ひらひらと手にした例のDVDを見せつけながら、ずんずんこちらへ向かってくる。もうどこに目をやろうにも際どい面積のマゼンタ以外、一面の肌色。しかも一歩一歩床を蹴るたび胸が揺れる。乳首が布の束縛から逃れんともがいているように見える。


「わわわっ、なんでっ、なんでこっちくるんだっ」


 迫る姫夏から逃れようとベッドに上る。しかし彼女もまた四つん這いで上ってきてしまい、すぐに壁を背に追い詰められた。この判断が間違っていたことに気づくが時すでに遅し。


「おやおやァ? ティッシュこんなに出して何する気だったんかなァー? それともシてる最中だったァ?」


「ちちっちがちがちがちちがっ」


「おっぱいがお好き? 結構、ではますます好きになりますよォ?」


 腕を伸ばせばもう俺を捕まえられる距離まで来て、姫夏は膝立ちすると胸を両手で下から押し上げた。恐らく乳首が俺の目を突き刺そうとするような角度。肌色が手のひらに収まりきらずこぼれている。


「あわわわわわわ……」


「ははっ、もうシンボーたまんないでしょ? これで認める?」


「み、認めるってな、何を……」


「オマエがヒメカでコーフンしてるってこと」


 ……何を言うのかと思ったら。


 まさか今まで突っかかってきたのは、そんなことを証明するため……?


「は、はぁぁぁ? 何言ってんのお前、そんなこと確かめるために……こんな?」


「さっきもそう言ったじゃんかよ。そしたらオマエ余計なこと言い出してごまかそうってんだから、こりゃこっちから実力行使するっきゃないじゃん」


「いやそうじゃなくて、何でそんなことするんだよ! 訳わかんねぇ……仮に俺がお前の水着とか裸に興奮してたら何だってんだよ」


「だからオマエ言ったよな? ヒメカなんかでコーフンするとかありえないって」


「当たり前だろ家族なんだから! そういうこと考える方が変なんだって!」


「それでヒメカのこと犬みたいだとか、乳触っときながらろくに謝りもしねえでよォ。人のこと何だと思ってんだ」


「何って……」


「女扱いしてねェだろうがッ!」


 声を荒げながら、膝立ちをやめて再び四つん這いになり向かってくる姫夏。ここからだとより胸の谷間が強調されて見える。


「そ、それはそういう意味じゃなくっ! いやその、こないだ触っちゃったのは悪かったよ! でも別に今までそんなこと気にしてなかったのに……」


「ヒメカが気にしてねェって言ったかよ!」


「え、いや……」


 気にするタマじゃない、とか思い込んでいたけど。


 こいつはこいつで、俺の何気ない言葉で少なからず傷ついていたのかもしれない。


 俺があのDVDを「そんなの」と吐き捨てたことまで含めて。


 俺が「可愛い」とか言われて、男として見てもらえないのが嫌なのと同じように。


 こんな口調や性格でも、豊四季姫夏という人間を作っている大前提にはまず「女」という要素がある。


「……ごめん」


「いらねェんだよごめんとかすまんとかそんなの。だからヒメカはオマエに認めさせて、赤っ恥かかせて笑いものにしてやるんだ」


「そ、そんな無茶苦茶な……もういいだろ、十分……」


「あくまで認めないって? じゃあイくとこまでイくしかないかなァ」


 嘲笑いながら俺に覆いかぶさるほど近づいてくる。視界いっぱいに広がる肌色から鼻孔をくすぐる甘い香り。むしゃぶりつけるほど近くに、彼女の全てがある。


「ほーれ認めろ認めろー♪ お姉ちゃんでコーフンしてオ●ニーする変態だってなァー! ぎゃははっ!」


「あ、あ、あ……」


「それともジッショーしちゃうかァ? いいんだぜェここでシても。何なら手伝ってやるし? もちろんオカ姉ユキ姉に言いふらすけどなッ!」


 今日まで散々お預けを食った俺のソレが、ちょうど姫夏のへその下を突き刺すような角度で怒張していた。


 脳裏で理性と本能とが天秤にかけられる。一瞬、それが傾いてはいけない側へ振り切れそうになるビジョンを垣間見て、俺は……俺は……。


「やめろッ!」


 理性を振り絞って、姫夏の肩を両手で突き飛ばした。尻餅を着いた衝撃でベッドが軋むが、すぐに彼女は身を起こしてまた向かってくる。


「痛ッ!? 何すんだよッ!」


「や、やめろって言ってんだよそういうの! ほんとキモいんだよッ!」


「なっ……!?」


 愕然とする姫夏の顔が見えたが、気にしている余裕などなかった。噴火寸前まで高まっていた昂ぶりを押し留めるつもりでまくし立てる。


「さっき言っただろ家でくらいまともな振る舞いしろって! た、ただでさえ姉弟同士でキモいのに、そもそもこんなこと平然とできるのがおかしいんだよ!」


 学校や仕事場での姫夏がどのように振る舞っているのかは知らない。さすがにDVDの中の言動は作っているとしても、「好きでもないやつに見られてもなんとも思わない」とまで言いきるくらいだ。実際かなり誤解を受けるようなことが多いんじゃないか。


 それに前にどこかで聞いた話だと、着エロみたいな作品に出演しているグラビアアイドルは、そのままAV業界に転向することも多いとか。


 別にAV女優って仕事そのものを否定するわけじゃないし、差別するつもりもない。ただもし姫夏がどこでもこんなノリでいるのなら、誰にでもこんなことをしてしまうのなら。無自覚のうちそういう世界に足を踏み入れてしまうんじゃないか。必要な知識とか覚悟があるかないかに関わらず。


 心配している、というには白々しい気もするけど。でも他人からの視線に自覚があるなら、自分が「女」だというなら相応の警戒とか恥じらいを持つべきだろう。

 少なくとも、血のつながった弟にこんなことをしているうちは信用が置けないし、なおのこと改めてほしい。


「ほんといい加減にしろよお前! そういうとこだぞ俺が言ってるの! お前がこんなことしてるって他人が知ったら……」


「オマエ今なんつった?」


「え?」


 自分の正当性を突き付けるようになおもまくし立てようとしたが、ふとした姫夏の呟きにあっさり勢いは止められてしまう。

 それから何を言おうかさえ忘れてしまったのは、悪寒が走るほど冷たいその声色と、俺のことを信じられないという風に見据える目つきのため。


「オマエ今、ヒメカのこと『キモい』って言ったな? 言ったよな?」


 こんな姫夏の声は聞いたことがない。それに顔立ちが抜群にいいこともあり、感情を露わにするだけで名匠が研ぎ澄ました日本刀のような鋭さがある。


 間違いなく言えるのは、彼女は今まで見た中でも一番怒っている。


「ふざけんなよオマエ、ヒメカがキモいわけないんだ。キモいのはいつもヒメカを見るたび鼻の下伸ばしてる男どもであって、姉でコーフンしてるオマエなんだ」


「ひ、姫夏……落ち着……」


「うるッせェんだよッ!」


 家中に響き渡るだろう大声。先までの威勢などすっかり消沈してしまった。蛇に睨まれた蛙とはこのこと。


「ヒメカが誰にでもこんなことしてるわけねェだろーが。オマエだけだよオマエにしかしねェよ。どいつもこいつもこの仕事してるからって人のことエロの塊みたいに言いやがって……お前だけはそうじゃないと思ってたら、そもそも女として見てないと来やがった」


「べ、別に女扱いしてないわけじゃ……」


「オマエがそう思ってるだけだろうがふざけんなよマジで。もう許さねェ絶対許さねェ。久しぶりに泣かしてやる」


 言って、再び膝立ちする姫夏。そのまま両手を背中に回すと、直後ビキニの上がはらりとベッドの上に落ちた。


 けれど今度は手ブラさえしない。姫夏の乳房が手を伸ばせば触れられるほど近くで露わになった。


 あれだけ見えそうで見えないギリギリで隠されていた大事なところをあっさりと、それも突然に。


「え、うわっ!?」


 目を眩まされたように顔を両手で覆う。だが網膜にはっきりと、肌と違う色の輪と突起の光景が焼き付いていた。俺の目を狙うような角度をしていた。もろに見てしまった。


 指の隙間から視線を下向きに様子を窺うと、そこにビキニの下らしい布きれも落ちている。


 ……ということはこの瞬間、姫夏は生まれたままの姿でそこにいる。


 かと思えば、指の隙間から見える視界が肌色だけで埋まった。姫夏がなおも迫ってきていると知り、あろうことか俺は身を翻してシーツの上に突っ伏した。突っ伏してからもう逃げられないと気づいたが、ほかに取るべき手立ても浮かばなかった。


「言っとくけど、ヒメカはオマエのことそーゆー目で見たりしないから。これからするのもオマエに恥かかせてびぃびぃ泣かせるためであって、それでコーフンするとかあり得ないし」


 脳天に声が降ってきた。直後、腰のあたりにずしんと重みが走る。けれど苦しくはなく、むしろ心地よくさえある圧迫感。そして身を任せたくなる温もりと柔らかさ。


 丸裸の姫夏が、俺の腰の上に乗っている。


 びくん、と体が跳ねるのを抑えるのに必死になるほど、みるみる怒張が勢いを増していく。痛いまでになる。


「ひぐっ!?」


 背中を両手でさすられた。下からなぞり上げるようにして、しなやかな指が群れを成して肩甲骨を、肩を、そしてうなじにまで這ってくる。

 声を上げてしまうほどむず痒さと心地よさとか絶妙な塩梅の刺激。このまま指が往復するだけでも、あるいは。


「ひっ姫夏っ……! 俺が悪かったからっ……謝るからっ、だからっ……!」


「ははっ、コイツ震えてる! そんなにハダカのお姉ちゃんが怖いかァー?」


 怖いのは姫夏の裸ではない。それによって抑えられなくなってしまう自分と、その果ての姿を恐怖している。

 こいつの言う通り、そうして恥をかかされれば俺は一生姫夏とどう向き合って生きていけばいいのかわからなくなる。


 まさか、姉の手でそんなことをされてしまうなんて。


「姫夏頼む、頼むよっ……! ほんとに嫌なんだっ……!」


「ダメでーす泣こうが喚こうが絶対許しませェーん」


 視界の両端に、たった今までうなじを這っていた両手が叩きつけられるのが見えた。間もなく背中全体にのしかかってくる暴力的なまでの柔らかさ。


 先日手のひらで、今日左腕で知ったあの柔らかさ。


 俺が知りうる限り、この世で最高の柔らかさ。


「うぁぁああぁぁっ……」


 あられもない声を隠せない。下腹部の昂ぶりを抑えるだけに全ての意識を向けざるを得ない。


「ヒメカもこういうことするの初めてだけどさ、いつまで持つかなァ?」


 すぐ後ろから姫夏の囁く声。甘美な響きが鼓膜に注がれる。息遣いさえ細かに拾えるほど近い。


 間もなく、姫夏の体が俺の背の上で弾み始めた。胸を、腹を、腰を、全身をリズミカルに押し付けてくる。

 それに連動して、俺のソコまでシーツに向かってずんずんと潰される。潰されまいとなおも硬度を増していく。


「うぁぁぁっ! ひ、ひめかっ! それほんとやばいっ! しゃれにならないからっ!」


「いーじゃんイっちゃえよ楽になるからっ♪ あははっ、これ結構楽しいっ♪」


「やめっ、やめてぇぇっ! なんでもういうこときくからそれだけはぁぁっ!」


 もうなりふり構っている余裕などなく、そんな後先考えないことまで口走ってしまう。だがそれに姫夏の繰り出す地獄の上下運動は収まりを見せた。


「へぇぇ何でもォ? それじゃヒメカでコーフンしてたってこと認めるかァ?」


「う……ぐ……」


 隠しようもないのは明らかだ。というか、姫夏にしたってそんなことはわかりきっているはず。

 だがあくまで俺の口から認めさせることが彼女にとっての「勝利」になる。もう残された道はそれを受け入れるほかない。


「……あ、あ、ああ……してた……」


「ヒメカのDVDでコーフンしてオ●ニーしてたのかァー?」


「し、してた……」


「そーかそーか、オマエとんでもない変態だなァ。いやーマジで引くわドン引きだわァ」


「う、うぅぅっ……!」


 興奮してしまったのは事実だが、本当にオ●ニーだけはしていない。

 自分の中ではそれが真実だとわかりきっていて、相手が勝手に思い込んでいるだけなのに。

 認めてしまったことでそれこそが真実にすり替わってしまったような気さえして、悔しくて恥ずかしくて、もう何も言えなかった。


「ちゃんと素直になれたなァ偉いぞー、ヒメカが欲しいのはジュージュンな弟だけだかんなァ?」


 猫なで声を耳に注ぎながら頭をなでてくる。それだけでとろけてしまいそうな快感があった。

 というより、姫夏の接している箇所全てが下半身に直結した刺激へ変換されている。


 このままでは例え彼女が何もしなくても、そう遠くないうち果ててしまう。


「けど許さねェーし。おらこっち向けよ」


「え……」


 ふっと腰から背中にかかる重みが抜け、再び視界の両端でシーツに両手が着かれていた。四つん這いで俺を見下ろす体勢でいるらしい。


「言う通りにするんだろー? また背中の上で今みたいにしてほしいかァ?」


「わ、わかった……」


 とうとう認めさせられてしまった以上、全てに従うほかない。両目を固くつむりながら仰向けに転がる。

 それによって怒張にかかっていた自重とシーツへの圧迫がなくなったが、今度はズボンを突き破らん勢いで上を向いているのが傍目からにも明らかではないかという恐れが現れた。


 姫夏に、勃起しているところを見られてしまう。


 そうしたらもう何もかも否定しようがない。


「ぎゃははっ、そんなにハダカ見たくねェのかよ。もう変態だってわかりきってんだから、開き直って一生の思い出になるくらいガッツリ見とけばァ?」


「ぐっ……!」


 だが今度は腹の上に重みがかかった。股間より手前に座られたということはかろうじて見られていないことだろうか。いやとっくにバレているかもしれないし、そう考える方が自然かもしれない。


「まあどっちでもいーけどね。目つむってようと泣かすもんは泣かす、絶対」


「ひ、姫夏……もう許し……」


「許さねェって言ったろーがァーッ!」


 怒声にはっと目を開いてしまう。その瞬間、全裸で俺の腹の上から飛び込んでくる姫夏の姿が映った。


「ぶッ!? むぎゅッ……!」


「ほーらこいつでオ●ニーしてたんだろー? おっぱいが嫌いな男なんているわけねーだろどーなんだコラァ!」


 あっと思った時にはもう逃げられなかった。二つの乳房が顔めがけて襲いかかってくる。


 暴力的なたわわ。温もりと芳香、柔らかさが全て俺の股間へダイレクトに響く。


 それも生で、服も下着もつけていない素肌のままで、優しい圧迫が激しく迫る。さっき背中の上で行われたのと同じように、一定のリズムによって繰り返される乳房の前後運動。


「ぶッ……むぐッ……んむぅッ……!」


「よーく聞けオトアキィ、オマエはヒメカの弟なんだからよォ。弟は姉の言うこと聞いてりゃいいんだ、そーだよなァ?」


「そ、そんなっ……んぶぅッ!」


「オマエはヒメカのショユーブツなんだよずっとずーっとなッ! おいわかったかこの変態ッ! どーだコラどーなんだほらッ! ぎゃははははッ!」


「んべッ……ひ、ひめかもうやめっ、ゆるしてっ……! おねがいだからぁっ……」


 姫夏が何を言っているかなどもう頭に入ってこない。何をされているかそのものさえ考えられない。ただ股間に集まる濁流のような昂ぶりを抑えることだけが、俺のこの瞬間、人生の全てと化していた。

 それなのに、もう抑えきれそうにないところまで来てしまっている。直接ソコを触られてはいないのに。それほど乳房の暴力というのは妹とか弟とか家族なんて前提を薄っぺらいと吹き飛ばすほどの魅力があった。


 いっそ、楽になってしまおうか。後々姫夏や桜花姉ちゃんたちからどんな目で見られようと、今この時が気持ち良ければ、それでいいのかもしれない。


 でも、そんなの。


 ヌく前は二回戦三回戦と血気にはやりつつ、いざ一発済ませるとどうでもよくなるのがほとんどだった今までを思い出す。その後押し寄せる、果てしないほどの無気力、虚無感、寂しさ、やるせなさ、虚脱感も共に。


 たった一度の快楽と引き換えに、一生にわたって付きまとうかもしれない白い目を受け入れるだけの度胸が俺にあるか? いやない。


 だったら、だからこそ。


「ひめかっ、ひめかもうやめてぇぇっ……うっ、ぐっ……うぅぅぅっ、うぁぁぁぁっ……!」


 最悪の結末を迎えたその先の、受け入れがたい未来が脳裏に瞬いて、それを回避しようと全力でもって姫夏に屈伏する道を選んだ。


 この状況で情けない声を上げようと思えば簡単に上げられた。後は感情の奔流に任せるだけ。仮にも女、それも家族に辱められたことの屈辱が自然と涙腺を緩めてくれる。

 全てが意識して、というほど計算づくだったという余裕は微塵もないけど、とにかく俺は彼女の要求に従い、その胸の中で泣いた。泣いて許しを乞った。


「ぎゃははほんとに泣いたよコイツ! そーかそーか、そんなにやめてほしいか? マジで反省したんだな?」


「うん……うん……」


「よーしわかった許してやるよ。でもさァ、最後にひとつ……」


 ようやく前後運動を止め、乳房の圧迫を緩めてくれる姫夏。だがそこから覗けた表情はかつてないほどの邪悪さをたたえていた。


「答え合わせ、しとかないとなァ」


「え……な、何を……」


「オマエがどんだけコーフンしたかはっきりわかるとこあんだろー?」


 そう告げられたと同時に、腹をなぞる指の感触に気づき、全身の血の気が引いた。


 その動きはほかでもなく、俺のソコを目指している。


 先の背中からうなじまで這いまわったあの感触が、俺の一番デリケートな部位にまでやってきてしまう。それもこれだけ漲ったところに。


 耐えられるわけがない。


「やっ、やめっ……! 姫夏っ、そこだけはやめてっ! やめてくれぇっ!」


「何だよ何嫌がってんだよッ! ほんとにオマエがコーフンしてるか確かめたいだけなんだからさァ!」


「やめてぇぇっ! やめろぉぉっ!」


「ぎゃははははっ!」


 全力でもがいて抵抗するが、腹を這う指つきはとうとう止められない。あと瞬きする間に、かつてない怒張で天を向くソコに触れられてしまう。


 そうすれば……そうされたら……もう……。


「たすけっ……たすけてぇぇっ……!」


 こないだではないけど、誰に向かってではないけど、そんな情けない台詞が口をついて出た。


 刹那、


「さっきから何騒いでんだクソバカタレどもがァァァッ! こっちが締め切りブッチ寸前で炎のバイオレンス燃やしてるとこでテメェら……」


 ドアを蹴破ると同時につんざく雪音姉貴の怒声。そりゃこれだけ騒げば彼女の部屋まで響いただろう。


 そして俺と姫夏が全てを忘れて固まるほどの威勢を張り上げた雪音姉貴でさえ、この部屋の光景を見て固まってしまった。


 全裸の姉が、弟の腹に乗って乳を顔に押し付け、さらにその股間をまさぐろうとしている。


 誤解されかねないどころか、誤解ですらない。


 つまり俺が姉に逆レイプされかけているような。


「……何あたしのマンガみたいなことしてんの、お前ら……」


 いつもの声色に戻って、しかし素でドン引きした様の雪音姉貴の呟き。


 姫夏も固まって口をぱくぱくとさせるばかり。


「まあなんだ……どうしてもヤりたいなら止めないけど……避妊はしとけよ?」


「えっあっユキ姉これはちがっ」


「外に出しても避妊にはならないからなー……」


 引きつった笑みを浮かべながら、雪音姉貴は自分の部屋へ踵を返していった。


「ちょおおおおっ!? ちちち違うんだってばユキ姉ッ! そーいうんじゃなくてオトアキがっ、このドスケベがっ!」


 俺の腹から飛び降りるや、素っ裸のまま姉貴を追って飛び出していく姫夏。それからごちゃごちゃ騒ぐ声が聞こえたが、何を言っているのかまでは定かでない。

 爆発寸前の股間を抱えながら、ダンゴムシのように丸くなる。もう思考と感情と本能とがこんがらがってよくわからないが、とにかくは助かったらしい。


 それから俺が真っ先に向かったのはトイレである。理由はもちろんわかっているよね。わかれ。

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