第10話 姉の着エロDVDを見た

「ふゥゥゥざけやがってェェェェェ!」


 乙秋は激怒した。必ず、かの変態畜生の純夫を除かなければならぬと決意した。


 今日は土曜日。昼までに家事を片付け、飯のついで外で純夫と落ち合った。目的は例のブツの返却、そして報酬の受け取り。

 かねてより要望していたタイトルのDVDと共に、もう一本あいつの「オススメ」がおまけでついてきた。


「本番なしのグラドルのやつだけど心配すんな、下手しなくてもそこらへんのAVより断然ヌける」


 エロが絡むと絶対にボケがない純夫。あいつがヌけるというからにはそれはもうドチャクソシコシコであることを意味する。


 うん、さっきからテンションがおかしいことはわかっている。だが今日の俺は溜まっているのだ。ここ連日のゴタゴタもあってなおのこと。

 だからこそ、今日手に入るブツをそれはもう待ち望んでいたわけだ。前夜から正直ドキがムネムネだったけど、それでもなお我慢した。だってギリギリまで焦らした方が最終的にはキモチイイから。


 そういうわけで純夫と別れ三十秒フラットで帰宅したのが午後14時過ぎ。さっそく俺はテレビのあるリビングへ直行した。

 悲しいことに、うちで俺が使えるテレビはここだけしかない。そのうちポータブルDVDプレーヤーでも買おうか検討中だが、日々を桜花姉ちゃんから支給される小遣い三千円でやりくりしている身としてはなかなかお財布事情が切ない。

 幸いこの日は姉ちゃんと姫夏が仕事で外出中、雪音姉貴も「締め切りブッチの危険が危ない」とか言って部屋にこもりきり。音量を絞れば楽しむことができる。


 どういう流れでイこうかも決めていた。まず純夫のチョイスした「おまけ」で気分を存分に盛り上げておく。十分ヌケるとは言っていたが、とりあえず本番がないらしいのはむしろ好都合。あまりに過激すぎると我慢できなくなっちゃうしね。

 前戯が済んだらいよいよ本命のもう一本。好きな女優のやつなので大外れは引きにくい。最悪でもフィニッシュのとこまで持ってってイければいい。


 そういうわけで、俺は純夫から受け取ったDVDの入っている紙袋を開いた。


 一本は確かに、俺の要望した本命の方だった。それはいい。それはいいんだよ。別にこっちだけでもよかった。

 ところが問題なのはもう一本の「おまけ」の方。


「これ姫夏じゃねェかァーーーッ!」


 それはもう、それはもう。


 DVDのパッケージにはほとんど裸のような水着を着たうちの姉。こんなだけど一応俺の姉。

 家じゃ絶対しない作り笑顔を貼り付けて「いやーん」「うっふーん」とでも言いたげなポージング。


 いやんもう、うわんもう。


 てことは何か、純夫は俺の姉でヌいたと申告しやがった上で俺にもシコってみろと。あの野郎もうアレだぞ、アレだからなあの野郎。

 まあ純夫には姫夏のこと、もっというと桜花姉ちゃんと雪音姉貴の仕事についても教えていないので、つまり知らなかった、全くの偶然ということになるのだけど。


 しかしだよ!


「ふざけんな誰があいつなんかでヌくかヌけるかヌいてみろ……即刻たたき返してやる……!」


 つい愛と怒りと悲しみに任せてゴミ箱に投げ込みたくなったが、うっかり姉たちに見つかろうものなら目も当てられない。間違いなくまた家族会議で吊るし上げられる。純夫からもらったなどと弁解しても今度こそ信じてもらえない。

 それに先日の件といい、いつまた姫夏に部屋を荒らされるかもわかったものじゃない(ゲームや漫画を借りに無断で入ってくることもある)。つまりこれは俺が持っているだけで第一級の危険物ということ。リスクしかない。得することなど何もない。


 だからこのDVDをこれ以上手にしていることさえおぞましいはず、だったのだが。


「それにしても、なんつー水着着てんだ……いやこれ水着っていうのか?」


 もう一度パッケージの写真を見た。目に痛いマゼンタのマイクロビキニ。上も下も本当に大事なところしか隠していない。もしかしたらどこかはみ出てるんじゃないか。


 少なくとも、あいつがうちでこんなカッコするのは見たことがない。グラビアアイドルとしてデビューしてすぐの頃は、あいつ自身が自慢げに見せてきたのもあってイメージビデオを目にしたこともあったが、あれはもっと普通の水着を着ていたし、ポージングとかだってここまで扇情的じゃなかった。


 だが、これはいくら何でもやりすぎだ。仮にも女子高生がしていいカッコじゃない。


 そう思わされるくらいには衝撃的だったし、同時に今のあいつのグラビアアイドルとしての姿をろくに見ていなかったことに気づかされた。


 だからそこに沸いた興味というのは下半身から来たのではなく、単に知的好奇心というか、探求心というか、見もせず頭ごなしに否定するのもよくないと思ったからであって。

 でもさっき言った通り今日の俺は溜まりに溜まっていたのだから、姉どころかもう乳よ母よ妹よとか関係なくなってきたというのもなくなくなくなくなくはない。


「み、見るだけ……見るだけ、だから……」


 絶対にヌかない。ドン引きするぐらいエロかったとしても、絶対にこいつではヌかない。

 というか、ヌいたらロリコン以上の変態だ。


 そう固く心に誓いながら、俺はDVDをプレーヤーにセットした。


『ヒメカでーす♪ おはようございまーす♪ 今日から二泊三日で沖縄旅行に行ってくるよー♪ いっぱい持ってきたとっておきの水着でみんなのこと、骨抜きにしてあ・げ・る♪』


「ぅぅぅおおぉぉぇええええぇぇ!」


 開始早々、ぶりっ子全開な姫夏が出てきて昼に食ったラーメンをフルバーストしかける。聞いたことのない猫なで声に違和感しかなくて全身が総毛立つ。


 撮影場所は空港。そういえば今年の三月頃、春休みに泊りがけで仕事に行っていた時期があったので、どうやらその時の様子らしい。

 同行するカメラマンか、テロップと共に男の声でインタビューが入る。


『ヒメカちゃん、沖縄に着いたら何したい?』


『そうだなー、とにもかくにもまず海でしょ! 沖縄には中学の修学旅行で行ったことあるんだけど、あの時は団体行動優先で泳げなかったし。ああでもまず何を着てこっかな迷うな~♪』


『とっておきの水着ってことは、いつも以上にすごいの期待していいのかな?』


『いやもうすごいよ~ホンポーハツコーカイってやつ? あーでもカメラさーん、胸とかお尻ばっかじゃなくちゃんとヒメカのこと映してよねー。今日のために気合入れてきたの、水着だけじゃないんだから』


『そんなに! 水着以外に気合入れたのって何?』


『それは向こうに着いてからのお楽しみ♪ もう前かがみになってるみんなー? みんなが大事にしてるソ・コ♪ これから粉みじんにバクハツさせちゃうから、覚悟してよねっ♪』


「おえっぷ」


 これでほんとに前かがみになってる奴がいるのか。もしかしたらすでに己のソコをシゴいているのか。

 というか何、いつもこんなノリでやってんの? いくら仕事だからってあいつも死にたくならない?


 いやまあ上には上がいるというか、桜花姉ちゃんの仕事ぶりなんかを小耳に挟むとこれでもまだ健全な部類に入るかもしれないとも思ってしまうが。ほんと、声優って大変だなとしみじみ。


「もういいや……適当にチャプター飛ばして済ませよう」


 幸か不幸か俺の「大事なソコ」は今のですっかり萎えてくれたので、後はもう業務的に見るだけ見ておこうという程度には落ち着けた。

 そうとも、そりゃあいつのファンとかならさっきのでギンギンなのかもしれないが、家族である俺には何一つそそるところがなかった。やっぱり実の姉に欲情するなんてあるわけないんだ。


 そうタカをくくりながら、次のチャプターへ飛んだ。


『うっみっだーっ! いやっほーぅ一人占めー♪ この海も砂浜もぜーんぶヒメカのものー♪』


 すでに沖縄に着いたらしく、場面は海辺の風景に移っていた。

 晴天に恵まれたこともあり、一面の砂浜が眩しいほどの白さ。そしてどこまでも続く水面の透き通るようなきらめき。


 だがそんな大自然の美しささえ、カメラの中心で飛び跳ねてはしゃぐ姫夏の姿には全てが単なる背景でしかなくなっていた。


 姫夏の二つのたわわな実り。それが躍動するたび、まるで別の生き物のように激しく揺れている。


 ぷるんぷるん、なんてどころではない。


 それも彼女が着ているのは黒いマイクロビキニ。パッケージのものとは違ったが、それでも露出の多さはほとんど変わりない。むしろ黒いことで肌色と砂浜の白とのコントラストが演出され、余計にそれを着こなす肢体の艶かしさを強調していた。


 え、俺いま「艶かしさ」とか言った?


「おいおいおい、そんな動いたら絶対はみ出……み、見え……あッ!」


 短く叫んだのは歓喜の声などではない。もう少しで見えそうというところでカメラのアングルが変わってしまったからだ。


「何てことを……何てことしやがる……」


 これは地団駄を踏んでるんじゃなく、実の姉になんて辱しめを受けさせるのだという憤怒である。憤怒と言ったら憤怒だもん。ぷんすかぴー。


『ふー……海に入る前からはしゃぎすぎちゃった。それに沖縄はやっぱ暑いなぁ……』


 爽やかに額の汗を拭う姫夏、これは間違いなく演技だ。あいつが素で暑がるとすれば、


「あぁぁああっぢー……うあー溶ける溶けるアイスアイスー……ってひとつも残ってないじゃん! おいオトアキなんで買い溜めしとかねェんだよ! 夏は暑いもんってぐらいわかりきってるでしょ⁉ わかったらさっさと買ってこいよッ!」


 多少盛ったが、まあだいたいこんなことを言われたことがあったような気がする。


 しかしさも「暑い」ように振る舞うビデオの中の姫夏には、そうした傍若無人さの気配は欠片もない。

 汗という不快な要素さえ、自身の体を引き立てる極上のスパイスとして活用している姿があった。


『あぁんダメ、ガマンできない! よーし脱いじゃおっ♪』


「ちょおまっ……⁉」


 目を疑った。額の汗を拭った手をそのまま背中に回すと、姫夏はビキニの上を躊躇いもなく脱ぎ捨ててしまったからだ。


『あはっ♪ 全部脱いじゃってもいいよね? 今このビーチはヒメカだけのものなんだし♪』


「何言ってんだ頭やられてんのかこの痴女! 痴女が! これ撮ってんだろ撮られてんだぞ⁉ 現在進行形で見られてんだろうが!」


 思わず数ヵ月前の撮影の映像に叫ばずにはいられないくらいにはすでに平静を失ってしまった。


 そうして上半身を完全に露わにした姫夏。両手で乳首のあたりを覆いながらカメラの方を向く。いわゆる「手ブラ」というやつか。

 下はまだ履いているものの、下手するとこっちも脱ぐとか言い出すのだろうか。


『あれ? もしかして……みんなももうガマンできなくなっちゃったの? しょうがないなぁ……』


 と、挑発するような笑みを浮かべた姫夏がカメラに向かって迫ってくる。もちろん手ブラのまま。カメラは定点のようにその位置から動かない。


「おいおいおいおい……何する気だ……」


『んもぅ……ここでしちゃって満足しないでね? ヒメカのとっておきはまだまだこれからなんだから……』


「ほぁっ……!?」


 次の瞬間、ビデオの中で繰り広げられた光景に絶句した。


 カメラの目の前まで来て跪いた姫夏が、そこで手ブラのまま覆った自身の乳房をこね始めたのだ。

 こねるというか、こすり合わせているというか。見ようによっては揉みしだいていると言えなくもないかもしれない。


 そしてその最中の彼女の顔は、画面の向こうの「みんな」とやらをなお誘うように蠱惑的な笑みを絶やさなかった。さらにその運動を続けるにつれ、肌は上気し、息が上がっていく。吐息にさえ艶っぽい響きがにじみ始めている。


『はっ……♡ はっ……♡ はっ……♡ はっ……♡』


 もはや言葉も出ない。


 つまりこれはあれだ。男優が出ていないだけで、疑似的に「そういう」ことをしているように見せかけてるわけだ。


 おっぱい使ってする「そういう」ことっていったらもうあれしかないわけですよ。


 そう……パイをね、こう……ズリズリと……。


「何やってんだよ!」


 とツッコむべきだっただろう。事実そのように叫びたかった。だが開いたきり塞がらない俺の口は間抜けな形を作ったまま、この光景を否定する台詞を発そうとせずにいる。


 今この画面の中で繰り広げられている行為を否定することとは、つまり今の俺の感情、いやもっと本能的な、動物的な欲求の沸騰にかぶりを振るということになる。

 しかし悲しいかな俺は男。そして先から何度も言っているように、今日の俺はモノローグがこんなおかしなことになるくらいには溜まりに溜まっていたわけで。

 だから俺が抱いたこの興奮は、とめどないこの怒張は……決して姫夏に、実の姉に向けたものではなく。姫夏の行為が醸し出す雰囲気そのものにあてられたと、つまりそういうことにしようと考えた。


 周りくどくて何を言っているのかわからない? いや別にわからなくていいしわからない方がいいと思うんだけど……なんていうかその、下品なんですが……ふふ……。


『あははっ♪ このままヒメカのおっぱいでバクハツしちゃえっ♪』


「ってしねぇぇぇーーーよ! だぁぁぁぁれがテメェのそんなんで爆散するかぁーーーッ!」


 決死で気力と理性を振り絞り、リモコンの停止ボタンを押した。


 勝ったんだ、俺はあいつに勝ったんだ。あんな安っぽい挑発に乗ることなく、ましてやヌくことなくやり過ごすことができた。

 全く興奮していないといえば嘘になるけど、でもそれはやっぱりあいつにそそられたのではなく、あいつのしていたこと……つまりパイズリという行為そのものからあれこれ連想しただけなのであって、つまり俺は変態じゃない。変態じゃないといったら変態じゃないんだってば。


「まあ……ちょっと危なかったけど……」


 下腹部を見る。怒張が未だ収まらない。でもこれだってもともと溜まっていたわけだから不可抗力というもの。


 少しだけ、本当に少しだけだが名残惜しさに後ろ髪を引かれつつ、俺はプレーヤーからディスクを取り出してケースに仕舞った。やはりこんなもの俺が持っているべきではない。月曜にも早々に純夫に突き返すとしよう。


 気を取り直して、本命の女優の方で楽しむとしようじゃないか。これだけ溜まってれば二発目もワンチャンあるぜ? なんてイタす前は毎回そんなこと思うんだけどなぁ……。


「ただーいまー。あオトアキー、今日の晩ごはん何ー?」


 なぜDVDの再生を停止したのに、姫夏の声が聞こえたのか理解できなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます