第9話 傍若無人な三女の言い分

 ヒメカの名前は豊四季姫夏。十七歳、高校三年生。ついでにグラビアアイドルなんてのをやってる。


 中学の頃にスカウトされて、最初の頃はまあ「フツー」なのが多かったんだけど、今のプロデューサーの誘いで高校に上がったぐらいからもっと露出を増やした……いわゆる「着エロ」とか言われるような内容が多くなった。正直、親とかオカ姉にはあまりいい顔されてないんだけど。


 そりゃヒメカだって恥じらいがないわけじゃないし、いつでもどこでも脱ぐとかそんなケーソツじゃない。もっというと人に思われてるほどチャラくもない。

 前に学校で誰かが「仕事相手のオヤジとかと枕してんじゃないの」とか陰口叩いてたの聞いたことあるけど、ふざけんな誰がそんなキモいことできるか。

 脱いでるのは仕事だから、それ以上も以下もない。


 それに好きでもなんでもない男に見られたからってなんとも思わないし。お金落としてくれるんなら勝手に見て、勝手に一人でシてればってくらい。


「ひとまずお疲れさん。なんかいつもより表情固いけど、やっぱ潔い脱ぎっぷりで見ててスカッとするわ」


 今日は土曜日だけど、朝から新しいイメージビデオの撮影があった。昼休憩中、スタジオの隅のパイプ椅子に座って支給された弁当をつついてると、プロデューサーの松村紫穂まつむらしほがやってきてスポーツドリンクのペットボトルを渡してくる。


「表情固い? ヒメカが?」


「うん。いつもの作り笑いが三割増しでぎこちなく見える」


「男どもが見んのはチチとかケツが先なんだから、顔は後からついてくるんでいいよ」


「まあ今回の衣装に関しては真っ先に首から下に目が行くだろうけど。でもヒメちゃんさ、アイドルは顔が命なんだから」


 ちなみに今バスローブの下に着ているのは白いスリングショット水着。胸に至ってはやっと乳首が隠れてるってぐらい。

 このカッコしてバランスボールの上で飛び跳ねたり、カメラに向かって腰を振ったりさせられる。たまに自分でも何やってんだろうって思う時もなくはないけど。

 まあ見られるだけなら減るもんじゃないし、写真集やDVDも売れてるのでそこそこお金も入ってくる。そこらのバイトで店長とかクレーマーなんかにヘコヘコするよりヒメカ的にはこっちのがいい。


 そう、今日までこの仕事を続けられてるくらいにはヒメカは売れている。数えるくらいだけどテレビにも出たことがある。


 つまりそれだけヒメカでコーフンしてる男どもが世の中にはいるということ。


 というか、学校の同級生のうちヒメカで「イタした」ことのない男なんているのかな? さすがにそれは自惚れすぎ? でもどいつもこいつもヒメカと話すと誰も目を合わせようとしない。男はみんな胸ばかり見てくる。


 今のところ、ヒメカを「そういう」風に見ない男はたった一人。


「シホさァ、ヒメカの胸触ってコーフンしない男っていると思う?」


「え、なに急にその質問」


「どーなの」


「もし触ったりしたらその日『イタす』ネタは決まったようなもんでしょ、男にとっちゃ」


「ところがヒメカでコーフンするとかあり得ないっていうやつがいんだよ」


「誰?」


「弟」


「なーんだそうゆう……」


 シホが呆れたように項垂れた。


「気になる男でもできたのかと思った。何さ、妙に表情ぎこちなかったのってまさか」


「は? んなわけねェじゃん! 気にしてないしそれとこれとは関係ないし!」


「いや気にしてんでしょ実際。まあ面と向かって言われたらまあ、思うとこはあるかもね。姉弟とか以前にさ」


「ていうかさ、家族ってだけで男はほんとになんとも思わないわけ? クラスの男子とか見てるとサルみたいなやつばっかだよ? 姉とか妹でも平気で『イタして』そうじゃん」


「あたしに聞くなよ……兄弟とかいないからわかんないし」


 項垂れたまま軽くため息を着くシホ。それから少しの間を置いて、何か気づいたように顔を上げた。


「……胸、触ったってのはその弟?」


「うん」


「いくつ?」


「高一」


「触らせたの?」


「ちげェよ! 向こうからしてきたんだよ! それも触るどころか掴んだの! こう、世界でいっとースリルな秘密って感じで!」


「何それ襲われたってこと? そしてそのままイくとこまでイってしまったと」


「イってねェから! それにあれはその……一応偶然で」


 そこまで答えるや、うーんと唸るシホ。何か思い当たるフシでもあるのか。


「そういうことなら、まあ……その年だとなおさらそう言うんじゃない?」


「なおさらって?」


「だから、興奮したらまずいからなおのことって意味で」


「……つまり、ほんとはコーフンしたけどウソついたってわけ?」


「わかんないけど。でもまあ、まともな神経してたら姉弟でそういうのはまずいって考えるでしょ。弟がなんとも思わないのはおかしいとか考える方がよっぽどじゃ?」


「はぁ!? ヒメカがおかしいっての!? ヒメカはまともだし! ロリコンでもないのにヒメカのこと『そういう』目で見ない方がヘンなのであって、もしかしたらホモとかインポだって可能性も……!」


「ヒメちゃんさっきからなんの話をしてるのよ……ここ何日かでなんかあったらしいのはわかるけど。なんだそういうヒメちゃんはその弟くんのことどう思うのさ」


「どうって?」


 シホの質問の意味がよくわからない。

 オトアキのことどう思うかって……そりゃアイツはヒメカの弟で……。


「弟くんの裸で興奮するの?」


「は? するわけないじゃんキモすぎ」


「そういうことでしょ」


「違う。だってアイツは男でヒメカは女だから。ヒメカが言ってるのはそーゆうことじゃないし」


「何なんだよもうめんどくさいな……男だったら弟が自分のビデオでオ●ニーしないのがおかしいとでも?」


「それは……そこまでじゃ、ないかもだけど……」


「今の例えで近いってこと!?」


 別に、アイツのこと『そういう』目で見てるわけじゃないし。クラスの男どもに比べればまあ、相対的にマシな部類ではあるかもだけど。


 でもしょせん男だし。


 だからこそ一昨日、あの天城とかいうクソガキのペチャパイ触ったぐらいであたふたしてたわけだし。


 なのにヒメカのことは「犬のようなもの」とまで言いやがった。


 別にコーフンしてほしいってわけじゃない。ヒメカが言いたいのはもっともっと手前、前提としてあるだろうこと。


「……アイツがヒメカを、女扱いしてないみたいなのが一番ムカつく」

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