だべり

『今日もいい配信だったよ! ありがとう! 光輝の配信、本当に好き。光輝も好き。それと、少し話が大きくなって来てるみたいだけど、気楽にやっていけばいいと思う。仕事でカウンセラーやってるわけでも何でもないんだから、こんなこと言って大丈夫だったのかな? とかは悩まなくていいと思う。あ、悩んでないなら別にいいんだけどね』

『やっぱり光輝さんの配信はいいですね。はまる人にははまります。他の人には真似できないコメントの数々で、濡れました。今から鎮めようと思うので、電話してあたしの声を聞きませんか? 一緒にすっきりしましょうよ』

『光輝の言葉はいつも心に沁みてくる。本当に素敵だと思う。歌よりも人の心を動かすものはないと思っていたけれど、光輝の言葉を聞くとそんなこともないのかなと思う。良い配信をありがとう』


 葵、翼、怜の順に、四人のグループのところにメッセージが送られてくる。顔の見える人の労いとお礼は、やはり顔の見えない不特定多数よりも力があると思う。

 葵が翼に反応し、『そういうのは止めなさい』と突っ込んでいるのはさておき。


『今日も聞いてくれてありがとう。身近な人の声は、すごく励みになるよ。あと、途中、サポートをしてくれてありがとう。助かった』

『三人で電話して話し合って、代表してわたしがコメントしたよ。光輝のリアルの学校生活を知ってる人もいるから、いっそ三人登場してもいいじゃないかとも思ったけど、とりあえず一人にしておいた。余計に混乱しそうだったし。なんか問題ありそうだったら、三人とも登場しよう』

『うん。いい判断だったと思う。感謝』

『いーえー。これくらい未来の彼女として当然だよー』


 未来の彼女、か。なんだかとても照れ臭い。頬を掻いていると、翼からもメッセージ。


『あのメッセージ、あたしが関わってたのに気づいてました?』

『うん。そうだと思った』

『これが愛の力ですね! 結婚しましょう!』

『それはまた別』

『ちょっと、なんだか対応雑じゃないですか!? もっと構ってください!』

『光輝を困らせるの止めなさいって』

『困らせてません! 光輝さんも甘えられて喜んでます! 弟より義妹が欲しかったんだ、ってこの前こっそり打ち明けてくれました!』

『待って。そんな打ち明けをした覚えはないよ』


 妹じゃなくて義妹としたのは、まあ、それなら恋愛関係になってもギリ大丈夫だからだろう。ちゃっかりしている。


『昨日、帰ったふりをしてもう一度お部屋にお邪魔したとき、ベッドの中でそう囁いてくれたじゃないですか』

『そろそろ不気味な妄想狂になってきてるぞ。普通に怖い』

『ふん。冗談です。乗って来てくれない光輝さん、ひどいです。大嫌……嫌……嫌……嫌いなわけないじゃないですか! 大好きです!』

『演出が細かいな(笑)』

『えへへ』


 本当に、えへへ、と笑っている翼の顔が目に浮かぶ。向こうの狙い通りだろうが、これまた照れ臭くなってしまった。


『あんまり女の子女の子してると、逆に呆れられちゃうよ?』 

『男の子はこういうのが効果的と聞きますが? ぶりっこを嫌うのは女だけです。問題ありません』

『光輝、ぶりっこ好きなの?』

『えー、翼のは、どちらかというと好きかな。素を知っているし、あえてやってるところに悪意を感じないし』

『光輝! だいしゅき! わたしをお嫁さんにして! 一生あなただけの女にして!』

『うわ……。あたしでもそれはちょっと……。葵さん、それはたぶんただの痛い女です』

『……ごめん。わたしにはぶりっこの才能ないみたい』

『なんか、僕もごめん。変なことさせちゃったみたいで。でも、そういう一面も見れて楽しいよ』

『そう? まあ、二度としないとは思うけど』


 三人でグダグダしたメッセージのやり取りをしていると、怜からもメッセージ。


『ところで、そろそろ私は離脱する。ごめん。家に防音の部屋あるから、あとは歌う』


 家に防音の部屋があるっていうのも珍しい。どういう家なんだろうか。そのうち行くこともあるだろうか。


『怜、また明日』

『またね』

『頑張ってください。私もボチボチダンス再開します』

『うん。今日は本当に楽しかった。ありがとう。また明日』


 怜が去り、僕達もそろそろ解散の頃合い。だが、最後に一つ、翼が問いかけてくる。


『ところで、アイドルってことは、ティアさんも女性ですよね? また女の子が増えたらどうしましょう?』

『流石にそれはないだろ。皆が皆、ご近所さんなわけもない』

『あたしの場合、住んでいる場所が近いからこそ相談しました。怜さんもおそらくそうでしょう。ティアさんだってそうかもしれませんよ?』

『それは、どうだろ』

『考えても仕方ないよ。来たら来たで迎え撃つだけだよ』

『お、葵さんが随分攻撃的ですね。あたしも負けませんよ』


 二人のやり取りを、どういうスタンスで見ていればいいのかは迷うところ。傍観者ではダメだとわかっているが、すぐに気持ちが決まるわけでもない。でも、あんまり悠長にはしてられないよな。

 悩むうちにボチボチ解散となり、あとは一人の時間を過ごす。勉強を一通りして、あとは本を読む。

 本を読むなんて、自分の中で全て完結してしまうことだと思っていたけれど、もう少し役に立つみたいだ。何が役に立つかなんて、本当にわからないものだ。

 また、誰かの役に立てたらいい。そう願いながら、本の世界に没頭していった。

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