大和と対談
「なにそれ、光輝、モッテモテじゃん。すげー。うーらやーましー」
配信前の、二十時頃。僕の状況を説明したところ、ニヤニヤしながら大和がそう言った。
場所は僕の部屋で、二人揃って床にあぐらをかいて向き合っている。
「っていうか、大和だってモテるだろ」
「うん」
「うわ、即答とか」
「仕方ないじゃん。事実だし」
「でも、彼女とか連れてこないな。いるんじゃないのか?」
「いないよ。今はそういうの考えらんない、って断ってる」
「そうなのか?」
「そうだよ。だって、俺、今は配信とか動画投稿で忙しい。自由時間の九割くらいをそっちに費やしてんのに、彼女と遊んでる暇ないって。隙間時間に彼女と付き合うとか、失礼だろ?」
「……そりゃそうか」
「ま、中にはその隙間時間交際でもいいって言うやつはいるよ? でも、それは俺が嫌なんだよ。付き合うんだったら、ちゃんと付き合いたい。相手が望んだとき、隣にいられる関係じゃないとダメだと思う」
「確かに、それが理想だな」
「そりゃさ、スポーツとか音楽とかめちゃくちゃ頑張ってるやつが、隙間時間に男女交際やってることだってあるよ。でも、俺はそういうの無理だから」
「お前はそういうやつだよな。お前が無理だっていうなら無理なんだろう」
「うん。そう。で、光輝は、あの三人全員と付き合うつもりなの? それとも本命がいるわけ?」
「……それが、まだ頭の整理ができてない」
「俺が光輝の立場だったら、遠慮なく三人と付き合っちゃうけどな。相手がそれでいいって言ってんだからさ」
「へぇ、意外だな。お前は、一人だけがいいタイプだと思ってた」
「そうだけど? でも、三人に言い寄られて、誰かに悲しい思いをさせるって心苦しいじゃん。だったら、もういっそ全員と付き合って、皆幸せにしちゃおうって思う。俺の主義より、女の子の気持ち大事にしたい。もちろん、三人同時交際で、相手がちゃんと幸せになれるっていう前提でね。浮気みたいなのはもちろんダメだ」
「……なるほどな。お前はやっぱり判断が早い」
「俺は光輝みたいに頭良くないから、考えることが少ないんだよ。もうこれでやっちゃえ、って直感で決めるだけ」
「そうか……。それでいいのかもな」
「そうそう。頭でいくら考えてもわからないことってあるじゃん。そういうのはやってみないとさ」
「……うん。だな」
「で、誰と付き合うの?」
「もう少し考える」
「あはは。やっぱり考えるんじゃん。ま、それでいいんじゃない? 俺と光輝は違うから。俺を好きになる女の子と、光輝を好きになる女の子も全然タイプが違う。優しそうな三人だし、待ってくれるよ」
「うん。そうだな」
大和の思考は、明確でさっぱりしている。僕より優秀だと感じていたけれど……単純に、考え方の違いというものもあるのかな。
「にしても、なんか、光輝とじっくり話すの、久しぶりな気がする」
「……かもな」
「女の子の影響かな? それとも配信? 光輝、少し雰囲気柔らかくなった」
「そうか?」
「うん。部屋の扉が開いた感じ? 今までは、どっか俺と話すの嫌がってた気がする。わかんないけど。
あ、せっかくだし、配信までなんかしよーぜ。久々に将棋でもやる? それともゲーム?」
「……将棋、やってみるか」
「いいぜ。小学生以来ほとんどやってないから、もうすっかり忘れてるだろうけどさ」
「それは僕も同じだよ」
それから、配信の時間まで大和と将棋をした。どこにしまってあったのか、小学生のときに使っていた将棋セットを大和が引っ張り出してきて、懐かしい気持ちになった。
お互い、もう将棋の勝ち方なんてほとんど忘れてしまっていて、勝負は五分。どちらも決め手に欠けることも多く、一局打つのにも
少し時間がかかった。ポツポツ喋りながらだったのも影響しているかもしれない。将棋で勝つより、どちらかというと話すことの方がメインだった気がする。
二十一時手前で将棋の道具を片付け、僕は配信の準備。部屋を出ていく途中、大和が尋ねてくる。
「光輝はこれからもずっと配信続けるの?」
「……続けるよ。続けてくれって頼まれてる。あの三人にも、他の人にも」
「ふぅん。すげぇな。まだ配信四回だろ? それでもう熱心なファンができるとか。俺が始めたとき、一ヶ月くらいはちゃんとしたファンとかいなかったぜ?」
「お前のファンを横取りしてるようなもんだからな。全部が僕の実力じゃない」
「でも、俺は観客を集めただけだ。それでも観客が離れなかったってことは、光輝の実力だよ」
「……かな」
「そうそう。じゃ、頑張れよ。俺が復帰したら、たまには一緒に配信とか投稿やろうぜ」
「……そうだな。お前がはしゃいでる横で、僕は微動だにせず頬杖ついてるよ」
「マネキン・チャレンジはもう古いって。光輝もしゃべれよ」
あはは、と笑いながら、大和が去っていく。
大和と一緒に配信することがあるとは思っていなかった。いや、僕がそういうのは少し避けていた面もあるか。
仲が悪かったということはない。でも、どこか線引きをしていたようにも思う。これ以上は関わり合わない、と。
「……僕はやっぱり、まだまだ情けない、しょうもないやつだよ」
自嘲気味に呟いて、僕は配信を開始した。
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