取り持つ
「で、どうします? エッチがダメなら、エッチなことしません? あたしのおっぱいとか見ます?」
「そういうのは、光輝君が誰と付き合うか決めてからでいいでしょ!?」
「付き合う相手を決めるために、エッチなことをするのもいいじゃないですか。体の相性も重要だと言いますし、性欲を満たすことも含めて恋愛でしょう?」
「それは……」
「もしかして、エッチするイコール恋仲とでも思っていますか? あたしはそうは思いません。恋愛関係にある男女だからエッチする、エッチしてもいい、というのは、単にそう刷り込まれ、思い込まされているだけです。学校や、漫画や、テレビに。
性欲と恋愛は、近いものではあるでしょうが、同じものではありません。例えば、恋人のいない人がエッチなことをしたいと思うのはおかしい、とでも言いますか? 流石にそんなことはないですよね? 恋はしてないけど性欲はある、というのも、人として自然な状態です。
恋仲かどうかは、エッチするしないの問題ではなく、気持ちが通っているかどうかが問題です。もちろん、それは目には見えないので不安定な判断材料だと思います。でも、エッチしたから恋仲だなんて言うのは、心を見る努力を怠っているだけじゃないですか?」
「むぅ……」
「あたしは、恋仲に進むためにエッチなことをするのも有だと考えます。いけませんか?」
どうやら、口では葵の方が押され気味のようだ。葵は、おそらく攻撃するよりも相手を包み込むような優しさに長けている。攻めに強い翼には、なかなか敵わない面があるらしい。
流石に、ただ見ているだけと言うのはダメな気がする。数秒考え、僕は思い付いた台詞を口にする。
「……『正論は正しい、だが正論を武器にする奴は正しくない』」
「『図書館戦争』ですね! 有川浩さんの」
「へ?」
翼は意気揚々と書籍のタイトルを口にする。だが、なんのことかわからない葵はきょとんとする。なんかそういう映画があったような……? と呟いた。
「なんだ、知ってるじゃないか」
「……知ってます。読みました」
「なら、相手が反論できないような言葉を並べて、相手を追い詰めるような真似をするのは、良くないんじゃないか?」
「……言われてみれば、そうですね」
先ほどまでの勢いをなくし、翼がちょっとシュンとなる。
「自分を守るために、時には言葉で相手に勝る必要もあると思う。だけど、相手を言い負かすために、言葉を乱用するのは良くない。
翼さんはとても賢くて、相手の弱いところがすぐにわかってしまうかもしれない。だけど、だからこそ、言葉の使い方は気を付けないとダメだ。反論できない言葉は、容易に人を傷つけて、深い傷跡を残してしまうかもしれない。
本から学んで、たくさん悩み考えて出てくる尊い言葉を、人を傷つけるためなんかに使わないでくれ。そんなことを続けていたら、翼さんの好きな本達が泣くよ?」
「……はい。すみません」
「僕はいいよ。謝るのなら、葵さんに」
翼は葵に向き直り、ペコリと頭を下げる。
「ごめんなさい。言い過ぎました」
「ああ、うん……。大丈夫だよ。気にしてない。圧倒されちゃったけど、風見さんの言うことはもっともで、感心しちゃった」
「でも、あたしって、いつもこうなんです。何かあると言いすぎちゃって……。配信仲間から追い出されたのも、結局こういうことなんだと思います……」
「今なら、大丈夫だよ。ちょっとやり過ぎちゃうところがあっても、光輝君は、風見さんを上手く抑制してくれると思う」
「……はい。こんな風に諌めてもらえたのも初めてで、惚れ直しました」
「……まあ、それはわたしも同じかな」
葵と翼が、複雑そうに苦笑い。
「にしても、清水さんは優しいですね。すぐに許してしまうなんて。そうやってあたしを懐柔する作戦ですか?」
「そんなんじゃないよ。思い付きもしなかった」
「そうですか。……清水さんは、ふんわりとして、布団みたいな人ですね」
「布団かー……。それもいいかな。わたし、布団好きだし」
「……あたしも好きですよ。普通なら」
翼が渋面を作る。
翼が言いたいのは、布団が好きということなのか、葵が好きということなのか。おそらくは後者。ライバルなのに、本来なら好感を抱くような相手だから、困っているのかもしれない。嫌いな相手であれば、単純に叩き潰せばいいだけ。攻めの強い翼は、きっと、嫌いな人を相手にする方が得意なんだろう。
逆に、好感を持つ相手とは、どう戦えばいいのかわからなくなる。
「じゃあ、お互い布団好きってことで、仲直り?」
「……別に喧嘩したいわけじゃありません。仲直りでいいです」
翼がぷいっと顔を背ける。なんだか微笑ましくて、僕はこっそり笑ってしまった。
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