第5話:帰還
私がペルセスを連れて冒険者ギルドに戻った時、最初ジャネルは黙っていた。
あまりの衝撃に、絶句して息を飲んだ状態で固まっていた。
生きて帰って来てくれると信じていても、信じられなかったのだろう。
ガサツだと自覚している私でも、何も言えず何もできなかった。
奇跡の生還と再会を果たした恋人に、どんな対応ができるというのだ。
「遅くなってごめんね、ジャネル、やっと帰って来れたよ」
万感の思いを込めてペルセスが静かに言葉を紡いだ。
どれほどの思いが込められているのかなんて、私が軽々に語れない。
信じていた仲間に裏切られ、獣に喰い殺される苦しい死に方をしたのだ。
世間の常識を遥かに超えて、自分の容姿を醜く変えてまで操を立てくれる恋人、死んだ自分を待ち続けてくれる恋人、ジャネルを守護してきたのだ。
「おおおおお、ペルセス、ペルセス、ペルセス、ペルセス……」
嗚咽と共に、ジャネルがただただペルセスの名を呼ぶ。
椅子から立ち上がってペルセスの所へ駆けて行こうとしたのだろう。
だが脚に力が入らなかったようで、膝から崩れ落ちてしまった。
一瞬助けに駆け寄ろうとしたが、私などお邪魔虫に過ぎない。
こういう時は恋人が駆けつけるからこそ絵になるのだ。
「ジャネル、大丈夫かい、ジャネル、結婚しようジャネル」
ちょっと腹が立つくらいカッコいいじゃないか。
素早く走り寄り冒険者ギルドのカウンターを飛び越えたペルセスが、まるで壊れ物のように優しく抱き起こしたジャネルに、何の躊躇もなくプロポーズする。
周囲の若い受付嬢が思わずため息を漏らしている。
世間にありふれた表面だけの男前など比べ物にならない、辛酸を舐めたのにもかかわらず、魂の輝きを失わない男の魅力がペルセスにはあるのだ。
「……駄目よ、駄目、私はこんなに醜く年老いてしまっているわ、だから……」
ペルセスが陥れられてから十年少しだと思うが、女の十年は大きい。
中身の魅力は磨かれるが、表面的な若さはどうしても失われる。
生きていくのが厳しく、ほとんどの女が十代のうちに結婚するここでは特にだ。
しかもジャネルは自分自身で呪いをかけて一気に容姿を衰えさせているから、今のジャネルに女の魅力は全くない。
その事はジャネル自身が誰よりもよくわかっている。
「そんな事はどうでもいい事だよ、ジャネル。
僕が愛したのはジャネルだけだし、これからもジャネルしか愛せないよ。
僕はまだ未熟だけど、直ぐに年を取って、君に相応しい人間になるよ。
だからそれまで不釣り合いで悪いけれど、横に立たせてくれ」
ほんと、腹が立つほど男前だわ!
容姿が若く魅力的に見える自分の方が、人間的には未熟で魅力がないと言い切って、年を重ねて魅力がでるまで待ってくれと言って、キスするなんて!
これほどの年上キラーを見たことがないわ。
この怒りは、ペルセスを陥れジャネルを十年も苦しめた、ゴリアスに向けさせてもらいましょう!
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