於菟奇譚

作者 辰井圭斗

最後一行のとてつもない威力

  • ★★★ Excellent!!!

 明治くらいの小説同人(たぶん)、病に臥せ連載を取りやめた寅吉さんと、雑誌を口実に彼を見舞う久さんのお話。
 言葉が出ません。完全に打ちのめされました。分量にしてわずか3,000文字強の掌編のはずなのですが、とてもそんな短さとは思えない。読み終えた瞬間のあの「ぐわっ」と来る感じというか、感情の揺さぶられ方みたいなものが、なんかもうとんでもないことになっていました。具体的には泣きました。すごいこれ。
 最後一行が大好きです。もう本当にここ、この一文の威力が凄まじすぎる。もちろんそれだけではないというか、そこまでの積み重ねあってのこの威力というのはわかるのですけれど、それでもやっぱりこの終わり方が最高すぎて……こういうのを「万感のこもった」というのか、そこから読み取れる意味の手触りが強く豊かすぎて、もう完全にこのひとことのために書かれた物語にしか見えないと、本当にそう思うくらいには大好きな締め方です。
 きっとこの一文でなけれ絶対こうまで揺さぶられなかった、というのもあるのですけれど。それ以上に〝ここで物語が終わっている〟のが本当にすごい。もうどうやってもうまく言える気がしないんですけど、別に何かが明かされたわけでも解決したわけでもないただのひとこと、なぜ「非道い」のかの理由でしかないちょっとした台詞の、その影に添うように在る思いが物語を結んでいる。つまり、〝文字で書かれてはいないもの〟(しかも容易には言い換えの効かない何か)でお話が締めくくられている。それも単に演出とかそういう話でなく、本当にこれ以上ないくらい正しい終わり方をしている——なんなら「確かにこの物語はこの一文が出た時点でこれ以上書くべきことがない」と深く納得させられてしまうような、この、もう、ねえどう言えばいいの!? わかって!? いや本当、打ちのめされたという言葉がしっくりきます。この終わり方はやばい……死人が出るぞ……。
 もちろん最後だけでなく、他にもいろいろと素敵なところ、魅力的なところはあるのですけれど。個人的には文章の巧みさと、シンプルにまとめらたお話の筋がとても綺麗に感じました。飲み込みやすく、そのおかげですいすい読まされちゃう。総じて自然で、どちらかといえば淡々とした描写のようにも思えるのに、なぜかしっとりと心に沁みるような風合いがあるんですよね。なんだろう、というか、どこから来るんだろうこの手触り……文章や描写に構えたような力みがなく、まるでさらっと書き下している感触が効いているのだと思います。いやどうだろう。あってるかどうかはともかく単純に好きです。
 よかったです。病のお話、あるいは人が亡くなるお話というのは、どちらかというと好きではなかったはずなのですが(だって悲しいし)、でもそれすらあっさりぶっちぎられたような感じです。それもある程度の分量をもってグイグイ振り回してくるならともかく、この短さでやられたのが本当に衝撃でした。とてつもない物語だったと思います。面白かったです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

その他のおすすめレビュー

和田島イサキさんの他のおすすめレビュー 717