この恋に気づいて 中編


―――


 次の日はレコーディングだったので、俺らは朝からリハをしていた。

 相変わらず仲本の事を目で追ってしまったり、晋太に嫉妬してしまったりしたが、俺は自分の気持ちに正直になろうと決めた。


 裕の言う通り、これが人を好きになるという事なのかも知れない。こんな感情知らなかった。本気で好きになった相手が、仲本で良かったと心から思った。


「はい、OKです!皆さん、お疲れ様でした~!」


 いつの間にかリハが終わり、更に本番も終わっていた。こんなんでも指は勝手に動くんだな、と自分で驚いていると浩輔の声がした。


「辻村君、行くよ~」

 見ると浩輔が数歩先で立ち止まって俺を待っている。

「おぅ、今行く。」

 俺は小走りで近付いて行った。連れ立って控え室へと向かう。



「あ~、疲れたね。コーヒーでも飲まない?」

「ありがと、浩輔。」

「あ、裕君もどう?」

「うん、僕ももらうよ。」

 浩輔が控え室にあるコーヒーのポットに近付いて、そう声をかけてくる。先に来ていた裕にも聞いた後、三人分のコーヒーを鼻歌を歌いながら淹れ始めた。


「はい、どうぞ。」

「ありがと。」

「サンキュー。」

 浩輔からコーヒーを受け取った俺は少し冷ましてからゆっくり飲んだ。恥ずかしながら猫舌なもんで……


「うん、うまい。」

 ボソリと呟いた時、廊下から声が聞こえて俺は固まった。


「仲本君、さっきの格好良かったね~」

「何言ってんだ。」

「だってさぁ~、あの曲って今までの僕らの曲に比べて難しかったじゃん。音程も複雑出しさ。それをあんな簡単に歌いこなしてて超格好良かったもん。僕、惚れ直したなぁ~」

「何だ、それ……」

 晋太の言葉にガクッと肩を落とす仲本。晋太は冗談混じりに言ってるけど本当の気持ちを言ったまでだから、そんな仲本の反応に面白くない顔をした。

 二人はそのまま部屋に入ってくる。俺はさりげなく移動して、皆に背を向ける格好でソファーに座った。


「あ、皆でコーヒー飲んでる~!浩ちゃん、僕と仲本君にも入れてよ。」

「いいよー。」

 晋太の言葉に浩輔は優しい声で答え、コーヒーを入れに立ち上がった。


「お疲れ。」

「……おぅ。」

 仲本がそう声をかけ、隣に座ってくる。俺はコーヒーを飲むフリをして、少しだけ体をずらした。


「……辻村?」

「何?」

「今日、心ここにあらずって感じだった。どうした?仕事に真面目なお前が、仕事に身が入らないなんて。最近のお前、ホント変だよ?何があった?俺で良かったら……」

「何もない!」

「辻村……」

 勢い良く立ち上がった俺にビックリして、仲本が顔を上げる。心配して言ってくれてるのはわかってる。


 でも、今は…優しくされると辛い……


 仲本のその大きな瞳と目が合って一瞬怯むが、もう止められなかった。


「何で……そんな事言うの?俺の事なんか、何もわかってないくせに。」

「辻村……」

「………。」

 控え室の空気がピーンと張りつめる。晋太達の視線が背中に刺さった。俺はゆっくり深呼吸すると、ふっと表情を崩した。


「大丈夫だよ、仲本。俺は大丈夫。ちょっと嫌なコトあって不安定になっただけ。もう、仕事に支障はきたさないから。」

 俺はしっかりと仲本と目を合わすと、笑った。


「そっか。何か、ごめんな。」

「ううん、俺の方こそごめん。せっかく心配してくれたのに……」

「いや……」

「……仲本君!そろそろ行こ。時間なくなっちゃうよ。」


 重い雰囲気を破ったのは、無邪気な晋太の声だった。仲本が晋太の方を向く。俺の顔から笑顔が消えた。


「お、おぅ……じゃ、皆お疲れ。」

「またね、仲本君、晋太。」

 仲本が立ち上がって俺らに挨拶する。裕と浩輔はそれに答え、二人に手を振った。


「……二人でこれからどっか行くの?」

 これからデートなのだろうか。そう思ったら、知らずに声が出ていた。晋太と目が合う。


「うん、ご飯行くんだ。」

 その顔は、昨日告白すると言った時の顔と同じだった。挑むような、何かを決意したかのような……


「そう。……楽しんできてね。」

「……じゃ、またな。」


 ちゃんと笑えていただろうか……パタンと閉じたドアが段々とボヤけてくる。


 後ろを振り返れば、裕と浩輔の顔も、ボヤけて見えなかった……



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