気づいて欲しい恋 後編
―――
その日の打ち合わせは散々だった……
自分の感情が抑えられなくて、晋太だけじゃなく、他のメンバーや挙げ句の果てにはスタッフの人にまで嫉妬してしまった。今日の俺の態度が悪い事をスタッフ達が陰で何か言ってるんだろうなぁと、どこか冷静な頭で思っていた。
わかっている。プロとしては失格だって。でも好きな奴と他の人が仲良く話しているのを見て黙っていられる程、俺は人間できていない。
小さい男だと笑われてもいい。それがホントの俺なのだから……
「……むらっ!辻村っ!!」
「え!?」
控え室のソファーでボーッとしていたら、近くで声がした。驚いて顔を上げたら、目の前に仲本のドアップの顔があって変な声が出た。
「うひゃあっ!」
「うひゃあって、お前……」
仲本がくすくす笑いながら隣に座ってきた。俺はまだドキドキする心臓を押さえた。
「な、何……?」
「俺さぁ。」
「うん?」
「何か知らないけど、最近ちょっと変なんだよ。」
「変って?」
「うん……」
急に口ごもる仲本を、俺は黙って見つめた。
「それだよ。」
「え?」
「お前のその目、最近感じるんだよ。何か俺に伝えたい事があるような、何かを訴えかけてくるような。……変だよな。お前からしたら別にんな事、思ってねぇんだろうけど。」
「…………」
絶句する。そしてはっと顔を逸らした。顔が赤くなっているのが自分でもわかった。
「でさ~……」
話を続けようとする仲本に、俺は身を固くする。何を言われるのか恐かった。
「その視線を感じるようになって、俺もお前の事をよく見るようになった。これって……意識してるって事なのかな。」
「……え?」
思わぬセリフに、バッと顔を上げる。仲本は真剣な顔で俺をじっと見つめていた。
その瞳に吸い込まれそうになる。俺は思わずぎゅっと固く目を閉じた。
「……なんてな。そんなはずねぇよな。俺ら二十年以上もも一緒にいて、今さら意識するも何もねぇって。なっ?」
ふっと笑うと仲本は早口でそう言い、椅子から立ち上がった。そのままドアへと歩いて行く。
まだうまく頭が働かない。ただ遠ざかっていく仲本の背中を見つめるしかできなかった。
「…何だよ、今の……」
パタンと閉じたドアに向かってそう小さく呟く。俺はそのまま、へなへなとソファーの背もたれに寄りかかった。
……これって、もしかしたら脈あり?
いまだにうるさい心臓を持て余しながら、俺は目を閉じた。
―――
気付いて欲しい恋。
早く気付いて。だってもう、隠し切れなくなっているから……
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