第571話 レチェンテ王、戦戦慄慄
レチェンテ国の王、アレッサンドロ・レチェンテは、ここのところ超がつく程のご機嫌ぶりだった。
そんなアレッサンドロのこの上機嫌の理由は、別に今に始まった事ではない。
そのご機嫌な理由とは、あの世界的に有名なディープウッズ家と、アレッサンドロが治めるレチェンテ国とは仲が良く、懇意にしている……という物からきていた。
先日他国の王たちと一斉に集まる、国王会議なる物がガイム国で開かれた。
立場的にこの世界の中間あたりに位置するレチェンテ国なのだが、主要な国12カ国の王が集まる国王会議にて今年一番注目されたのは、中途半端な国と呼ばれて揶揄されていたアレッサンドロの国レチェンテ国だった。
「レチェンテ国の発展は著しいようだねー。まあ、それは国王である君の力ではないようだけど……」
羨まし過ぎて仕方がなかったのだろう、あからさまにそんな嫌味を言ってきたのは、なんと国王会議の主催国であるガイム国の王、チェレスティーノ・ガイムだった。
これまで世界中の人々から世界一の国だと言われて来たガイム国だが、今はレチェンテ国に商売では負けている……と言われ始めている。
そう実はディープウッズ家のララ姫が会頭であるスター商会の影響から、ガイム国に中心店を置いていた大商会たちも、続々とレチェンテ国に店を構え始めているのだ。
ガイム王が焦る気持ちも分からなくもない。
いずれレチェンテ国に負けてしまうのでは? とそんな不安があるのだろう。
いつも余裕顔で国王会議に参加しているガイム王には、まったく余裕が無いようだった。
その反対にアレッサンドロはガイム王の嫌味にも余裕顔で「ハハハ~、まあねー」と笑い返すことが出来た。
それも全てディープウッズ家との強い繋がりが出来ていると、アレッサンドロ自身に余裕があったからだ。
(ララ姫とは、アー君、ララちゃんと呼び合う仲だし、何より友人だ。それにレオナルドはララちゃんに惚れていて、毎週のようにスター商会へ行き猛アタックをしている……レオナルドの想いが例え実らなかったとしても、今後もララちゃんがレオナルドの事を無下にすることは無いだろう。そうレオナルドも既にララちゃんに友人として認めて貰っている。それにシャーロットとジュリエットもララちゃんとは親友とも呼べるほどの友人だ……その上二人の婚約者もララちゃんとの繋がりが深い、このまま順調にいけばこの世界一の王となることも夢ではない……ハハハ……羨ましがられるのも仕方がない事だろう……グフッ、グフフッ)
ディープウッズ家の子供の存在を知った時、アレッサンドロには絶対に縁を繋ぎたい! 繋いで見せる! とそんな目論見のような欲があった。
だが今は、只々友人として仲良く出来ている事に感謝しかない。
そう別に無理に婚姻を結ばなくとも、ディープウッズ家が傍にいてくれるだけでレチェンテ国は勝手に発展してくれるのだ。
まあ、多少、多少……他国に「ディープウッズ家と仲良しなんだぞー、良いだろうー」と自慢したい気持ちは有る。
だがそれよりもこのまま友人関係が長く続くことで、レチェンテ国が大きく発展していくことこそが、一番の有益な事だとアレッサンドロにはもう分かっていた。
なので自分の息子の誰かとララを結婚させたいなどと深い欲は既になく、この関係を永遠に続けられることが出来たならば……とそんな期待に変わっていた。
なのでララと同い年の孫と末息子には、学園入学後はララと普通に仲良くしてくれればいいと、そう思っていた。
以前のアレッサンドロならば、どちらかの王子とララの婚約をもぎ取って見せるとそんな欲があったことは確かだが、恐ろしい守護神だらけのディープウッズ家の姫を、どうにかして娶りたいなどという危険極まりない欲はもう無くなっていたのだった。
兎に角細く長く良縁を。
今のまま、孫の代までディープウッズ家と仲良くして行けたなら。
アレッサンドロの願いはそうな風に変わっていた。
そして無事に孫と末息子がララと同じ学園に入学した。
二人にはディープウッズの姫様とは仲良くするように、と良ーくいい聞かせておいた。
友人になって欲しいと言う欲は勿論あるが、今現在他の子達がララ姫と既に友人関係なので、それ程強くは望んでいない。
無理せず、出来たら仲良く、それぐらいで良いのだと、超絶ご機嫌なアレッサンドロはもう何も問題は起こらないだろうと……安心しきっていた。
そう、そんなご機嫌な夜に、あの魔王とも呼ばれるアダルヘルムからの手紙が届くまでは……
『レチェンテ王、そなたがご子息のリッカルド・レチェンテ殿が、この度我が姫に働いた無礼に付いて聞いておられるでしょうか? またその王子殿ですが、我が姫に対しレオナルド王子を凌辱していると、信じられない無礼な言葉をぶつけて参りました。これはディープウッズ家に対しての攻撃とみなしても宜しいでしょうか? 我が姫を侮辱する、それがどう言う意味を持つか、セオとルイの件で貴方には理解して頂けたと、そう思っていたのですが、残念で仕方がありません。以前の手紙に次は無いと忠告差し上げたはずですが、そちらも正確に伝わってはいなかったようですね。例え心優しいララ様が許したとしても、我々ディープウッズ家の家臣はリッカルド王子の無礼は許しません。誠意ある返答をお待ちしております。アダルヘルム・セレーネ』
「ヒギャーーーーーーーーッ!!!」
深夜の王城にアレッサンドロの悲鳴が響く。
近衛騎士達が慌ててアレッサンドロの自室に駆けつけて来たが、残念ながら怯える王の姿以外、怪しい者は見えはしない。
ブルブルと体全体を震えさせ、机に置かれた手紙を恐ろしい物のように見つめアレッサンドロ王。
騎士達は怖い夢でも見て寝ぼけて悲鳴を上げたのでは? とそう思った。
だが次の瞬間、王の余りの様子に息をのむ。
恐怖が浮かんでいたはずのアレッサンドロのその顔には、今度は明らかに怒りが浮かんでいたからだ。
「リッカルドの教育係りをすぐさまここへ呼べ!! 全員だ! 全員直ぐに呼び出すのだ!」
鬼の形相とかした王に反論するものは居ない。
騎士たちや側近達が慌てふためく中、一人の王子が駆けつける。
「父上!」
バンッと良い音を立て扉を開けると、レオナルドがアレッサンドロの部屋へとやって来た。
その顔色は悪く、手には誰からかの手紙を握りしめている。
「「お父様!」」
開け放たれた扉から、今度はジュリエットとシャーロットが飛び込んで来た。
二人の娘の顔色も悪く、レオナルドと同じように二人共手紙を握りしめている。
先触れも何もなく部屋へと駆けつけた、寝間着姿のままの子供達の様子を見て、アレッサンドロはアダルヘルムの本気の怒りを感じていた。
このレチェンテ国が消えるかもしれない。
上機嫌だったアレッサンドロは、残念ながらもうどこにもいなかった。
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