第539話 私の教室?

「えーと……あの……校長先生、教頭先生……」

「「はい、ララ様、何でしょうか?」」


 二人の会話の意味が理解出来なかった私は、ニコニコな期待顔を浮かべる校長先生と教頭先生に声を掛ける。


 何かの色良い返事を待っているようだが、意味が分からなければ答えようがない。


 私はアリナとオルガに鍛え上げられた淑女の笑みを浮かべると、校長先生と教頭先生に問いかけた。


「失礼ですが……私は自宅で受験結果を受け取ってはおりません……」

「「えっ? ええっ?!」」

「受験の結果は学園で張り出される物で確認をしたくて……今日はその為にこの学校にやって来たのです。ですが……私の受験番号は合格者の中には有りませんでした……校長先生、教頭先生、私は不合格だったのではないのですか? 遠慮なく仰ってください……」


 校長先生と教頭先生は、人ってそんなに大きな口を開けられるんだね……と感心したくなるほど、目も口も大きく開いている。


 ディープウッズ家の娘である私が、わざわざ合格発表を見に来た事に驚いているのか。


 自分達の手紙が読まれていない事に驚いているのか。


 それとも私が不合格だと言った事に驚いているのか。


 口を開いたまま固まる二人の気持ちは分からなかったけれど、段々と顔色が悪くなっていく二人を見て、何だか私の方が悪い事をしている様な気持ちになってしまった。


 えー、私、普通の受験生ですよねー?!


 なんで罪悪感が募るんですかー?


 それより合否はどうなってるのー?



「そ、そ、そ、そり、それは、申し訳ございませんでした。あの、まさか、姫様が学校まで結果を見に来られるなど思っておらず……あにょ、あの、結果発表には姫様の事を何も記載しておりませんでした。あの、このことはくれぐれもアダルヘルム様には……」


 校長先生と教頭先生は相当アダルヘルムのことが怖いのだろう。


 その気持ちは良く分かる。


 だって私もこの世で一番怖いのはアダルヘルムだからね。


 なので二人に「勿論」と笑顔で頷いて見せれば「フー」と安心したように息をついていた。


 ただ……私はアダルヘルムには何も言わないんだけど……


 でもね、残念ながらセオとクルトは仕事なのでアダルヘルムにしっかりと報告すると思いますよ。


 校長先生、教頭先生、ごめんね。



「それで……校長先生、あの、私は合格なのでしょうか?」

「もっ!」


 校長先生は「もっ!」とだけ大きな声を出すと、息を吸う事を忘れてしまったかのようにパクパクとし始めた。


 どうやら心臓に悪い事ばかり続いて、上手く言葉が出なくなってしまったようだ。


 校長先生は目の前にある冷めきったお茶を一気飲みすると、また「フー」と大きなため息をつき、そして私に引きつった笑顔を向けるとどうにか喋りだした。


「えー……ララ様の試験結果なのですが……その……細かい事はお伝え出来ませんが……ララ様は筆記試験だけでも合計で1000点を超えておりまして……」

「えっ? えっ? 1000点?」

「はい、1000点です」


 筆記試験は五教科……


 全部満点でも合計で五百点。


 それが1000点超えるってどう考えても可笑しいよね?


 何故? と疑問が湧き、クルトとセオに視線を向けると、二人は口元を押さえ、校長先生から視線を逸らしていた。


 きっと笑っているのだろう。


 また私が何かやらかしたなとでも思っているのかもしれない。


 でも素直なディックだけは私の横で「ララすげー!」と褒めてくれている。


 親友のディックに尊敬しているような視線まで向けられてちょっと嬉しくなる。


 発表の表に何も書かれておらず、さっきまで不合格だと悲しい気持ちになっていたけれど、校長先生と教頭先生の事を許せそうだ。


 だって、マブダチに褒めらちゃったらねー。


 そこは仕方ないですよ!


 優しい気持ちも持てるってもんですよ!



「それで……あの実技の試験の方ですが……ララ様は我が校の教師陣よりも知識もお力もお持ちの為、教師陣がお教え出来る事が何も無いと言いだしまして……」

「はあ……」

「それでですね、ララ様には、教師陣に指導を行う教授になって頂こうと思った次第でございます……」

「えっ? 教授? ですか? 私が?」

「はい……1年間こちらで教室を用意致しますので、そちらで教師陣を中心に指導をして頂きたいと思いまして……あ、勿論お付のお二人もそちらの教室に付き添って頂いて大丈夫です。ララ様は生徒扱いではございませんので……」

「生徒ではない?!」


 セオとクルトは学園内まで私に付き添えると聞いて、満足そうに頷いている。


 本来ならば護衛や傍付きは学園内までは付き添うことは出来ない。


 セオとクルトは問題ばかり起こす私を傍で見張れるので、校長先生の提案がいい事だと思ったのだろう。


 だけど私は「生徒ではない」という校長先生の言葉がショックだった。


 友達100人出来るかな~? じゃないけれど、学校生活では沢山の友人を作ったり、放課後には寄り道をしたり、定番の恋バナしたりと、学生としてやりたい事が沢山あったのだ。


 なのに、相手をするのは先生達だけ。


 その上私は別の教室へ押し込められる。


 どう考えても友達を作りようがない。


 勿論ディックという親友が出来たけれど、きっとディックだって教室に仲の良い友人が出来てしまえば、余り会わない私など相手にしなくなるだろう。


 私があからさまにしょぼんとしたのが分かったのか、校長先生と教頭先生は今度は慌てだした。


「いや、あの、も、勿論ララ様は学園内では自由にして頂いて大丈夫なのですよ! ねえ、教頭?」

「えっ? あ、は、はい、それは勿論です! 先生達が嫌でしたら教室から追い出して頂いて構いませんし!」

「ふむ……それでは生徒との交流も自由と言う事でしょうか?」


 急にアダルヘルムの声が聞こえ、皆が入口へと振り向いた。


 アダルヘルムが真っ赤になった事務員のお姉さんに案内されて、応接室へとやって来たからだ。


 一緒にマトヴィルもいる。


 こちらはお得意のニヤニヤ顔だ。


 こんな二人を案内してきたなんて事務員のお姉さんの心臓が心配になる。


 アダルヘルムとマトヴィルは、きっと届いた手紙を読んで慌てて学校へ来てくれたのだろう。


 二人ともサングラスをしているので魔石バイクを飛ばして来たようだ。


 有難いけれど、校長先生も教頭先生もお顔真っ青だよ。



「ララ様、ここは教授をお受けしたら如何ですか?」

「でも……アダルヘルム……私は特別扱いは嫌です……普通に学校に通いたいんです……」


 友人を作ったり、一緒に授業を受けたり。


 一番楽しみにしていたのは友人との繋がりだ。


 特別扱いされれば、皆私と距離を取るだろう。


 私がガックリと肩を落とした姿を見て、アダルヘルムが一つ頷き口を開いた。


「ふむ……そうですね。歳の近い者達との交流は子供時代には大切ですからね……ですがララ様が異端児……いえ、少しばかり他の子供たちよりも先に進んでいるのは事実……そうですね……では、何かララ様も部活の様なものを開いてみては如何ですか?」

「部活?」

「どの教師も、どの生徒も、ララ様の教室には出入り自由。ララ様がお教えしたい事をお教えする、それで如何でしょうか?」

「つまり……私の研究室をこの学園に作ると言う事ですね?」


 先輩後輩先生関係なく、誰とでも交流出来る私の研究室。


 アダルヘルムに視線を送れば、笑顔で頷いている。


 まるで沢山の子供たちと仲良くなれますよと言っているようだ。


 うん、私の研究室、それ、悪くないかも!


 だって誰と仲良くなってもいいって事だもんね。


 笑顔で頷いた私を見て、校長先生と教頭先生が今日三回目の大きな大きなため息をついていた。


 校長先生、教頭先生安心してください!


 私張り切りますからね!


 目指せ友達百人なのだー!


 



☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

微妙に腰が痛い状態が未だに続いています。シップを張り張り誤魔化しています。すっごく痛むわけではないんですよねー。ちょっとだけ右腰が痛い。次の投稿までに治ることを期待しています。(;'∀')

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