第528話 戦いの後

 ウイルバート・チュトラリー達との戦いが終わった。


 占いの館として使われた、テネブラエ家の持ち物らしき屋敷は、あの爆発で全て壊れ、瓦礫と化した。


 コナーはウイルバート・チュトラリーを助けるだけでなく、証拠隠滅を図るために爆発を起こしたのだろう。


 ウイルバート・チュトラリーの事をあまり知られたくはない、いや自分たちの存在自体を調べられたくはない、と、そんな風に感じた。


 それから彼らは暫くは動けないだろうと、アダルヘルムがあの後そんな事を言った。


 あの時の、小さな子供のミイラのような姿に変わったウイルバート・チュトラリーを思い出しながら、私も同じ気持ちだとアダルヘルムに頷いた。


 あの姿からウイルバート・チュトラリーが復活をする。


 それはどう考えても難しいと思う。


 私と同じぐらいの魔力を持つ人間から同じ様に魔力を吸い取れば出来るかもしれないが……それは不可能に近いからだ。


 残念ながら彼らを逃がしてはしまったが、物凄い痛手をウイルバート・チュトラリーには与える事が出来た。


 今後彼は、血の契約で結んだ仲間をどこまで信じられるのか……


 そしてあの体でどこまで動けるのか……


 きっと沢山の課題があることだろう。


 あの時もしアダルヘルム達が操られている人たちを問答無用に倒していたら、きっと今頃ウイルバート・チュトラリーたちを捕まえる事が出来ていたかもしれない。


 だけど、それではダメなのだ。


 それではウイルバート・チュトラリー達と同じになってしまう。


 奴隷であれ、チェーニ一族の者であれ、簡単に命を取ることは私達には出来ない。


 この世界、やられたらやり返すが通用するとしても、それだけはしたくはない。


 奴隷になることなく、命を落とすことなく、罪を償える世界。


 そんな世界がいつか訪れれば良いと思う。





 そしてあの後、クロイドはジュンシーに引き取られ、闇ギルドの傘下に入り裏ギルド立て直しにこれから取り組むことになっている。


 それにウイルバート・チュトラリー達からクロイドを守るためには、私が作ったテゾーロとビジューがいるジュンシーの傍にいることは安全だ。


 裏ギルドも裏ギルドなりに世間からは需要は有るので、悪いことは今後せずに、地域に溶け込んだ明るい裏ギルド作りにクロイドは精進する様だ。


 ジュンシーが「私にお任せください」と言っていたので大丈夫だとは思うが……


 クロイドは裏ギルドに帰るとなった時、泣いて泣いて大変だった。


 スター商会(私のそば)に居たいと、裏ギルドは後継者に譲るのだと言って、子供の様に駄々をこねていた。


 リアムに「ララ、応援してやれ」と言われたので、クロイドの手を握り今回のお礼と「お仕事頑張ってね」と伝えると、人が変わったようにとてもやる気になってくれた。


 私の傍から離れている方が、私との繋がりは多少は薄くなるようなので、クロイドの為にもその方が良いと思う。


 私もずっとクロイドからの熱い視線を受けるのは辛いしね。


 だって、気持ち悪く……ううん、見張られているかのような気持ちになっちゃうからね。


 そんなジュンシーと共に帰っていったクロイドを見て、私はアダルヘルムに血の契約の疑問をぶつけた。


「血の契約の強さですか?」

「はい、リードはそれ程ウイルバート・チュトラリーの影響を受けているようには思えませんでした……ある程度自分の考えがある様な感じでしたよね? タルコットのおじさんだったブライアンもそうですし……高位警備隊だったラーヒズヤも自分の意思が強かった気がします……だけど使用人や騎士たちはウイルバート・チュトラリーの人形のようでした……あの違いは何なんでしょうか?」

「ええ……そうですね……私の憶測にはなりますが、あの時の使用人達や騎士たちは全員奴隷で、血の契約と奴隷契約両方を受けていたため感情が全くない状態になっていたのでしょう……それに比べて、ブライアン達は元々普通の人間としてこの世界で育っていた……そして欲がとても深い……元から自我が強いためウイルバート・チュトラリーの人形のようにはならなかった気がします。それとリードですが……あの者だけはチェーニ一族の生粋のものでは無いかもしれませんね……」

「生粋?」

「ええ、チェーニ一族の村で育たなかった……チェーニ一族から出た者の子供……とでもいえばいいでしょうか? この世界で占い師が出来るのも、普通の生活を知っているからでは無いでしょうか? それにあの者だけはウイルバート・チュトラリーの手下にしては極端に弱かった……チェーニ一族にしては弱すぎるとも言えますね……」


 確かにリードは戦いの場面では、全くといって良いほど役に立ってはいなかった。


 まあ、最初に防衛魔道具のお返しではじけ飛んだので、一番痛手を受けていたというのもあるが、私の癒しを受けても他のチェーニ一族の者たちがどうにか頑張る中、リードだけは隅に逃げ、自分の痛みだけをどうにかしようとしているように感じた。


 そう、ウイルバート・チュトラリーを主として見てはいるが、コナーほどの想いの強さはない気がした。


 まあ、コナーはコナーで強すぎる思いともいえるけどね。




 そして血の契約によって私達と戦う羽目になってしまった、あの時の使用人や騎士たちらしき奴隷だった人達は、私が胸の血の契約による印を消し、今後は普通の人として暮らせることになった。


 ただ犯罪奴隷だった人達をそのまま野放しに……とは行かない、そこはジュンシーとクロイドが責任をもって調べてくれると言ってくれた。


 その後は闇ギルドや裏ギルドの伝手で、王都で仕事をする事になるだろう。


 今王都では求人が沢山出て居る、なので彼らも一般庶民として暮らせるようになるはずだ。


 中には無理矢理奴隷になった人もいたらしい。


 ジュンシーならばきっとそんな彼らを悪いようにはしないだろう。


 ただし……


 怪物君にされてしまった人達は暫く療養が必要となった。


 リアムがブルージェ領にあるウエルス邸の屋敷で、怪物君にされた五人を預かってくれることになった。


 本当はスター商会やディープウッズ家で看病することが一番良いのかもしれないが、なんと言っても怪物君は未知の生き物と化してしまった。


 もしかしたらまだウイルバート・チュトラリーと繋がっているかもしれない。


 だとしたら、私の近くにいすぎると何があるかは分からない。


 それにまた暴れる可能性もゼロでは無い、なので下手に一般の療養所などには預けられないだろう。


 ウエルス邸ならばルタがいるし、アダルヘルムがロイドの診察に行くので、彼らの事も診る事が出来る。


 最善策だといっても良いだろう。


「それで……セオ」

「……はい……」

「あの時から何を憂いているのか……私達に話してくれるでしょうか?」


 そう、セオはあの戦いのときから少し様子が可笑しい。


 アダルヘルムもマトヴィルも、そしてセオを大好きなリアムも、勿論それに気が付いていた。


 セオは皆の顔を見て真剣な顔で頷くと、何があったのかを私達に話してくれた。






☆☆☆





新年あけましておめでとうございます。(=^・^=)

読者の皆様、今年も宜しくお願い致します。m(__)m

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