第519話 ご機嫌なアダルヘルム

「メルキオール達は無事占い師の部屋に入ったようですね……」


 アダルヘルムの声掛けに、馬車にいる私達は皆頷いた。


 さっきからスライムがアダルヘルムの手のひらの上で「キュッキュッ」「キュキュキュー」と、クロイドとメルキオールの様子を色々と話してくれているようだが、残念ながら私にはまったく通じない。


 何でもクロイドが気を利かせて屋敷の中の様子を事細かに報告して来ているらしいのだが、アダルヘルムが居なければ「キュー」としか伝わらなかっただろう。


 アダルヘルムの万能ぶりには舌を巻くしかない。


 それにしても……アダルヘルムが一緒にいない、リアムやベアリン達の馬車の中は大丈夫だろうか?


 ちゃんとスライムの言っている言葉が分かっているのだろか?


 そこがまた、とーっても不安になった私だった。



「あー、アダルヘルム? アダルヘルムはスライムの言葉がどうして分かるのですか?」


 アダルヘルムは私の問いかけに、珍しく目をパチパチとさせて驚いた顔をした。


 私からすると、ずっと気になって仕方がなかった事だけど、アダルヘルムからすると今更感があったようだ。


 そしてこの質問には、セオが滅茶苦茶興味をしめした。


 急に身を前に乗り出し、アダルヘルムの答えの言葉をあからさまに構えて待っていた。


 そう、やはりセオもスライム語を習得したいようだ。


 セオは魔獣好きの為、スライムと個人的にお話がしたいみたいだ。


 気持ちはとても分かる。


 私だって可愛いスライムと通じ合えたらって思うものね。


 それにしても……


 もしかしてアダルヘルムって、全ての魔獣の言葉が分かったりするのかしら?


 まあ、このスライムたちは研究所で作られた子達だから、魔獣ではなく、ペットに近いけどね。



「ララ様、スライム語ですが、スライム達のキュやクゥの音程が、私達の言葉に合わせて少しだけ違いがあるのです」

「お、音程の違い?」


 そんなの全く分からないけれど?


 でもアダルヘルムは当然顔で話を進める。


「はい、あいうえおでしたらキュキュキュキュキュ、もしくはクゥクゥクゥクゥクゥですね、それさえ覚えればスライムとの意思疎通など後は簡単なのです」

「……そ、そうなんですねー……」


 と、一応納得して見たけれど、全く理解できない。


 私の横でセオが「なるほど!」と分かったような顔で頷いているが、アダルヘルムのキュキュキュキュキュとクゥクゥクゥクゥクゥは全部同じ音に聞こえた。


 アダルヘルムがリアムやベアリン達に同じ説明をしたとして、彼らがそれを理解したとは到底思えない。


 アダルヘルムは私のそんな不安が分かったのだろう。


 リアム達にはスライムが使える文字盤を渡したと言っていたし、ルタに至っては、な、なんと! スライム語が理解できるのだと教えてくれた。


 ルタ! 凄いよ!


 それなら大丈夫だろうと少し安心出来たけど、私自身スライム語を理解出来る日はずっと来ないような気がした……


 でもセオは執念で習得しそうだよねー……


 セオ頑張って、私はやる前に諦めたよ……



「ふむ……リードが出てきたようです……それに……どうやらメルキオールに興味を持ったようですね……」

「えっ? クロイドではなく、メルメルに? えっ? メルメルを自分の護衛にしたいって事ですか?」

「……いえ、どちらかと言うと、愛人にしたいのでは無いのでしょうか……?」

「へっ? あ、愛人?! えっ? スライムがそう言ってるんですか?!」

「いえ、スライムからは触り方がいやらしいとだけですね……」

「いやらしいって……」


 スライムってば、そんな事まで分かるの?!


 どんだけ優秀なのよっ!


 でも、ちょっとわかる気もする……


 だって今日のメルキオールってば、異様な色気があったもんね。


 そう、男の中の男! って感じだったもの。


 あれは同姓でも惚れてしまうだろう。


 リードの好みのタイプがメルキオールなのか……


 それともウィルバート・チュトラリーがメルキオールを自分の物にしたいと思ったのか、もしくは誰かにプレゼントしようと思ったのかは分からないけれど、メルキオールが危険な目に合っている事だけは分かった。


(メルメルに目を付けるとは! リード、男を見る目があるようだね!)


「ふむ……クロイドがメルキオールは渡せないとハッキリ断りました」

「えっ?! そんな事を言ったらクロイド殺されちゃいませんか?」

「大丈夫そうです。まあ、ウィルバート・チュトラリーがどう判断するかは分かりませんが、クロイドが消えても困る者は少ないので問題ないでしょう」

「いやいや、アダルヘルム! 裏ギルドが困りますよ!」

「裏ギルド……? ああ……裏ギルドも消えても良いのでは無いでしょうか……」

「えっ?」

「フフフッ、ララ様、冗談ですよ……」


 アダルヘルムはそう言って妖艶に笑ったけれど、今の言葉、絶対に冗談じゃなかったよね?


 マトヴィルもセオもクルトも「その通り」みたいな感じでアダルヘルムの冗談(本気)に頷いてるし。


 ジュンシーに至っては「私が消しましょうか?」なんてアダルヘルムの冗談に乗っている。


 まあ、以前のクロイドのままならば私もそう思ったかもしれないけれど、今のクロイドはやっぱり嫌だけどそれでも少し愛着もあるし、何より私の分身にも近い。


 消えても良いとか言われると、ガマガエルみたいで、見つめられたりするとやっぱり気持ち悪いし、これまで色んな悪いことやって来た人だと分かっているけど、それでもちょっとだけ嫌だなと感じた。



「ふむ……話が始まったようですよ、クロイドが闇ギルド襲撃失敗の話をリードに向かって初めました」

「リードは……いえ、ウイルバート・チュトラリーは怒っていませんか?」

「ええ、今の所クロイドが楽しそうに話をしているだけですね……リードは聞くだけに徹しているようです……」


 襲撃失敗を楽しそうに話すクロイド……


 そもそもそこが一番可笑しい気がするけど……


 誰も突っ込まないようだ。



 スライムの話では、部屋中に ”変な臭い” がするらしいので、アダルヘルムが「それに酔っていると思われれば丁度いいですね……クックック……」と笑っていた。


 何だか今日のアダルヘルムは少し可笑しい。


 冗談も言うし、良く笑ってもいる。


 やっぱりウイルバート・チュトラリー達に近付いたからかしら?


 敵だと分かっているけれど、ご機嫌なアダルヘルムを見て彼らに心底同情した私だった。


 逃げた方がいいですよー! ってね。




☆☆☆




こんばんは、白猫なおです。(=^・^=)

ご機嫌なアダルヘルム……このタイトル、前にもあったような……

どうだったかなー。長くて忘れてしまいました。同じタイトルあったらすみません。(;'∀')

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