第518話 占い師との面会②(メルキオール)
屋敷の中へ通される前に、馬車から降りてすぐ身体チェックを受けた。
俺とクロイドの体を、玄関で待ち構えていた使用人……いや、屋敷の護衛か? もしくは戦闘系の奴隷だろうか? そんな奴らに隅々まで調べられる。
俺が腰に付けていた剣はここで取り上げられたが、悪いがそれはこちらも想定内だ。
今日腰につけていた剣はスター商会市販の剣で、俺が普段使っているセオ様お手製の、俺だけに合わせて造って下さった特別なものではない。
今日着ている趣味の悪い洋服のポケットは小さな魔法袋になっていて、剣も、そして色々な防衛魔道具も、それからスライムまでも、そのポケットの中に入っている。
その上、ベルトもネクタイも、ララ様が開発した武器へと変わる物だ。
いざとなったらそれで戦えるし、本物の俺の剣はポケットの魔法袋の中だ。
なので剣を奪われても、俺は痛くも痒くもなかった。
「では、こちらへどうそ……」
こいつも……やはり奴隷だろうか?
もし、襲撃を受けても切り捨てる事が出来る。
それを考えて奴隷にしているのか、それとも主従契約が出来、秘密保持の為に奴隷を使っているのかは分からないが、とにかく無表情の使用人たちが俺とクロイドを案内する。
ここまで出会った敵の奴らも皆感情がない、そう、まるで人形のようだ。
クロイドがご機嫌な様子でスキップを踏みそうな姿をみると、案内する使用人とは、結婚式へ向かう人間と、葬式へ向かう人間ぐらいの差がある。
馬車の時から一緒の青年も、そのまま俺達の後を付いてきているが、相変わらずの無表情だ。
ここには人間がいない。
そう思えるほど、屋敷の中には暗く、大人しいやつらばかりだった。
(こんな辛気臭い奴らと一緒に居てアイツは楽しいのかねー……)
廊下を進み、屋敷の奥へ奥へと通される。
屋敷に入ってからというもの、戦える敵の気配を沢山感じた。
俺達を品定めしているのかもしれない……
「いやー、それにしても……立派なお屋敷ですねー、調度品も素晴らしい!」
浮ついて空気が読めないクロイドが、鷹魔獣の剥製を見ながらそんな事を言う。
前を歩く使用人も、後ろを歩く青年も、クロイドの言葉に答える様子はない。
言われた事以外は行動しない。
きっとこいつらはそう躾られているのだろう。
同じ雇われ人の立場としては同情する……
俺の主であるララ様がこいつらの主だったら……
と、そんな事を考えてしまった。
だがどこまでも陽気でマイペースなクロイドは、そんな彼らの様子など気にする事もなく。
「壁紙まで品がある」「カーテンが重厚だ」「あの絵は素晴らしい」と、長い廊下を歩く間ずっと話っぱなしだった。
アダルヘルム様達に屋敷の様子を伝えたくて話しているのなら褒めたい所だが、クロイドはただ浮かれ過ぎて目に付くものを褒めているだけのようだった。
まあ、それぐらいは可愛いものだ。
とにかく、変なへまだけはしてくれるなよ……
「リード様、お客様がお越しになられました……」
通された部屋はぼんやりと薄暗く、カーテンも締切り、小さなランプだけで灯りを取っていた。
部屋の中はお香の様な香りが漂い、それだけで不思議な雰囲気を醸し出していた。
多分この香りは、余り吸ってはいけないのだろう。
アダルヘルムさまが言っていた、催眠効果のある香りの様な気がする。
ここで早速ララ様のお守りの出番と言うところだろうか。
俺の周りに結界が張られているような気がした。
それに既にララ様に酔っているクロイドには、このお香の効果も全く効く様子はないようだった。
そして部屋の中央には丸いテーブルが置いてあり、そこには占い師が使うであろう水晶が置いてあった。
きっとこれも人を惑わす魔道具なのだろう。
何となくだが禍々しい、気の様な物を感じた。
普通の人間がこの部屋へやってきたら、一瞬で可笑しくなりそうだ。
占いが当たる……と言われているのも、この薬や魔道具の効果あってのことなのだろう。
それと……客が願った事を叶えるために、こいつらの誰かが裏で動いて願いを実行しているのだろう。
そう思うと、胸糞悪く感じた。
俺がそんな気持ちでいる中、クロイドは鼻歌でも歌いだしそうな様子で案内された席へと着き、目の前にあるカーテンの奥へと頭を下げた。
どうやら、テーブルを挟んで掛けられているカーテンの中に、アダルヘルム様が言っていた占い師が居るようだ。
今の所カーテンの先には全く人の気配は感じないし、何人いるのかも分からない。
そう、自分よりも格上の相手。
それだけで、その事を十分に理解できた。
だが、スター商会にはそんな相手は五万といる。
アダルヘルム様やマトヴィル様なんて俺から見たら神に等しい。
セオ様だって底知れない強さを持っているし、ルタだって、キランやセリカだって、同じだ。
だが、俺はそんな人間とは思えない人物たちと普段から接している。
そのお陰か、嬉しいことに恐怖に鈍感になっているようだ。
護衛としてはどうかと思うが、あの人達よりも恐ろしいものはこの世にはいない。
そう思えるだけで気持ちが楽だった。
「クロイド……良く来た……」
「占い師様!」
男の声? だろうか……
男でも女でも通じる様な、少しハスキーな声で、その占い師という奴はクロイドに声を掛けてきた。
カーテン越しの為、姿は見えないが、何となく声の性質からニカノールを想像してしまった。
「その男は……新しい護衛か……?」
占い師は何故か俺に興味を持ったようで、クロイドにそう声を掛けてきた。
クロイドはさっき馬車の中で青年に聞かれた時と同様、俺を自慢げに紹介した。
「はい、私の新しい護衛でございます!」
「ふむ……中々強そうだな……」
俺が頭を下げ、褒められた礼を述べようとしたところで、占い師がカーテンから出てきた。
顔は布で覆っていて、見る事が出来ない。
想像通りニカノールのように細く、女性にも見える男だった。
そいつが俺の側まで来ると、俺の体を調べ出した。
(もしかしてポケットを疑われているのか……?)
それともララ様の仲間だと怪しまれたのかは分からないが、占い師が近づいて来たことで、緊張からか自分の心臓が五月蠅く感じた。
占い師は一通り俺の体を調べると「うむ……」と満足げな声を出した。
そして……
「クロイド……この護衛を私に貰えるだろうか……」
と言ってきやがった。
心の中で俺は焦る。
占い師に引き渡されたら、奴隷同然の存在となるだろう。
だが、クロイドはララ様酔いの笑顔のまま、それを断った。
「占い師様……申し訳ございません……この護衛は私の護衛と言っても、とあるお方からお借りしている護衛でもあるのです……」
「ほう……借りていると……?」
「はい、裏ギルド長として貴族の方に恩は売っておくものですねー、私にこれ程立派な護衛を下さったのですから」
「ふむ……なる程……裏ギルドの関係者か……それは仕方がないな……」
「はい、申し訳ございません……」
クロイドが本当に裏ギルドのギルド長だと、俺はこの時やっと分かった気がした。
俺よりよっぽど度胸が据わっている。
ララ様の力のせいかもしれないが、クロイドの裏ギルド長としての凄さを、この時ばかりは少しだけ感じた俺だった。
☆☆☆
こんばんは、白猫なおです。今日もご訪問頂き有難うございます。(=^・^=)
クロイドは浮かれております。ララの為に頑張るぞー!と気合入りまくりです。メルキオールはそんなクロイドを見て冷汗が止まりませんね。頑張れメルキオール!
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